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障害者の能力〝見える化〟シームレスバディに注目

2025年11月24日

※文化時報2025年10月10日号の掲載記事です。

 重度の知的障害や自閉症のある人たちの得意なことを見つけ、仕事につなげるシステム「シームレスバディ」が注目を集めている。アプリを使い、知能指数(IQ)とは異なるデータを取って本人の特性や能力を〝見える化〟。企業が雇用しやすい環境を整えている。すでに自治体を含めて複数の導入実績があり、開発した障害者就労支援会社「ダンウェイ」(川崎市中原区)の高橋陽子社長(51)は「誰にでも潜在能力はある。働く障害者を増やしたい」と話す。(主筆 小野木康雄)

言葉に頼らず情報伝達

 「おなじものをえらびます 41757」。画面に現れたお題と同じ数字の羅列を、五つの選択肢から選ぶ。お題は桁数が変わったり、ローマ字が混じったり。障害のある本人が10問ずつ、ゲーム感覚で進めていく仕掛けになっている。

 この「情報保障アプリ」と、小学1~2年の算数や国語などの領域から出題される「脳トレーニングアプリ」の結果を基に、得意・不得意をレーダーチャートで示すのが「シームレスバディ」。特性や能力を示す電子カルテという位置付けだ。

(画像1アイキャッチ兼用:「シームレスバディ」の画面を見せて説明するダンウェイの高橋社長。レーダーチャートで障害のある人の能力が分かる)
「シームレスバディ」の画面を見せて説明するダンウェイの高橋社長。レーダーチャートで障害のある人の能力が分かる

 知的障害のある人は、あいまいな指示やたくさんの情報が苦手。例えば「赤いボールペンを10本持ってきて」と言われても、「赤」という色、「ボールペン」という物、「10」という数を全て理解できなければ対応できない。一方で得意な概念なら、言葉で伝えられるよりも正確に情報をキャッチできる。

 企業にとっては、「シームレスバディ」で示されたデータに基づき、本人に必要な合理的配慮=用語解説=を行えば、仕事を任せることができる。

 「シームレスバディ」は年に開発。合理的配慮や仕事内容の提案などに人工知能(AI)を活用しており、特許も取得した。これまでにベネッセグループの特例子会社ベネッセビジネスメイト(東京都多摩市)や給食業界最大手の日清医療食品(同千代田区)などが導入し、埼玉県や静岡市といった自治体も活用している。「視覚障害のある人にとっての音声ガイド、聴覚障害のある人にとってのテロップのようなものが、知的障害のある人にも必要だ」。高橋社長はそう指摘する。

「息子を預けたくない」

 高橋社長が「シームレスバディ」の開発と普及に取り組んでいるのは、「障害者は働けない」という固定観念を取り払うためだ。根本には、自閉症で最重度知的障害のある長男、遼さん(22)の存在がある。

(画像2:「情報保障アプリ」を使う高橋社長の長男遼さん)
「情報保障アプリ」を使う高橋社長の長男遼さん

 遼さんは保育園の頃、発語がなく、学力テストを受ける機会すら与えられなかった。一方で小学1年の時には、同級生からの提案と見守りによって、高橋社長が手をつながなくても登校できるようになった。

 どちらも、障害のある子どもの可能性を狭めているのは大人だと痛感させられるできごとだったという。

 高橋社長は2010年度に、松沢成文神奈川県知事(当時)のマニフェスト評価委員に公募で選ばれ、障害福祉の政策に関する資料と現場を徹底的に調べた。仕事は限られたものしかなく、周囲の支援者が優位に立って「できない」と決め付けている実態を知った。

 「息子を預けたいと思える事業所がなかった」。待っているだけでは実態が変わらないからと、自ら起業して就労支援に取り組むようになった。

お寺の役割にも期待

 ダンウェイは川崎市中原区のJR武蔵新城駅前にある商店街で、就労継続支援B型事業所=用語解説=など複数の福祉事業所を運営。自社商品であるシークワーサー果汁の検品や販売先のチェック、川崎市から委託されたがん検診の検査キットのセッティングなどを、知的障害のある利用者が担っている。利用者一人一人が「シームレスバディ」を使っており、アプリを使って定期的にテストを受けている。繰り返していくうちに能力や自己肯定感も上がるという。

 新しい展開もある。東証プライム上場企業の農業分野の子会社コネクトアラウンド(東京都港区)が、ダンウェイの事業所の隣に、水耕栽培で無農薬野菜を育てる工場を整備。ダンウェイから受け入れた知的障害のある人たちが働いている。

(画像3:野菜を水耕栽培するコネクトアラウンドの工場。働いているのは知的障害のある人たちだ=川崎市中原区)
野菜を水耕栽培するコネクトアラウンドの工場。働いているのは知的障害のある人たちだ=川崎市中原区

 ダンウェイは栽培の工程を細かく分け、行うべき合理的配慮を抜き出し、写真や色分けなどで手順を明示することで、知的障害のある人が理解できるようなマニュアルを作成している。

 高橋社長は「支援する人とされる人という枠を超え、農業の課題解決というこれまでにない仕事に障害のある人が貢献できる」と力を込める。

 2025年版障害者白書によると、日本の障害者約1165万人のうち、企業が雇用しているのは約67万7千人(5.8%)。100人のうち94人が働けていない状況は、何十年も変わっていないという。

 「旧来の福祉業界にはない発想で、日本の障害者雇用を変える」と決意を語る高橋社長。「障害のある人は、優しい心や気付く力のある素晴らしい存在。お寺には、そのことをいろんな人に感じてもらえる場所であってほしい」と、お寺の役割にも期待している。

【用語解説】合理的配慮

 障害者の人権と自由が他者と平等に守られるよう、一人一人に対応して必要かつ適切な変更・調整を行い、困難を取り除くこと。障害者からバリアフリーを巡る対応を求められた場合、事業者は負担が重すぎない範囲で応じることが求められる。2011(平成23)年の改正障害者基本法に初めて盛り込まれ、21年の改正障害者差別解消法で全事業者に義務付けられた。

【用語解説】就労継続支援B型事業所

 一般企業で働くことが難しい障害者が、軽作業などを通じた就労の機会や訓練を受けられる福祉事業所。障害者総合支援法に基づいている。工賃が支払われるが、雇用契約を結ばないため、最低賃金は適用されない。

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