2026年1月29日
大阪市内を拠点にする「劇団月見座」の座長、千葉昇司さん(34)には、知的障害がある。特別支援学校を卒業後、現在は就労継続支援B型事業所=用語解説=に通所しながら演劇に打ち込む。悩みや葛藤を抱えながらも、劇団の活動をライフワークと捉えて、表現する喜びを感じている。(飯塚まりな)
千葉さんは、子どもの頃から中度の知的障害があり、読み書きや計算は小学3年生ほどの能力という。ゆっくりと話し、時々沈黙するが言葉を選んで真剣に思いを伝える。
小学校入学時は人見知りで話せなかったが、熟年教諭の熱心な指導のおかげで、会話や読み書きができるようになった。

成長するにつれて、やんちゃで明るい一面を出すようになった。18歳の時に、NHK教育の福祉系番組「きらっといきる」に出演し、お笑いの芸を披露。そこで自分とは別の障害がある人たちに出会い、障害が多様であることを知った。
その後も何度かメディアに取り上げられ「テレビに出たい」という気持ちが強くなったが、現実は甘くなかった。
卒業後はヘルパー2級(介護職員初任者研修)の資格を取り、介護施設で働いたものの、積極的な身体介助ができず、2年弱で退職した。さらに夢をかなえるため芸能事務所に入ったが、仕事がないままレッスン費用を払い続け、憧れのテレビやドラマには出演できずにいた。
2018(平成30)年、千葉さんは大阪府障がい者舞台芸術オープンカレッジ2018「うみのうたごえ」に出演した際、一緒にいた仲間たち数人に劇団をやらないかと声をかけた。
19年6月には劇団月見座を結成。団員たちの個性が、千葉さんの大好きな餅のように伸びることを願って名付けた。

劇団月見座の団員は現在6人。大阪市長居障がい者スポーツセンター(大阪市東住吉区)を拠点に、月2回稽古を行っている。全員が何らかの障害を持ち、ヘルパーに同行されながら車いすで参加する人もいる。
団員の中には練習に来るだけで疲れてしまう人や、体験に来たがウオーミングアップだけで帰ってしまい、理由を尋ねても教えてもらえない人もいた。
費用は無料。千葉さんが自分のポケットマネーから運営費を出している。唯一、台本の印刷代を数十円もらう程度だという。
全てを無料にすると気が緩み、継続して通ってもらえなくなるのでは―という懸念もあるが、本人は「障害のある人たちが、気軽に参加できるようハードルを下げたい」と考えている。
千葉さんが過去に舞台のオーディションに落ちた際、応募条件に「心身ともに健康な人」と書かれていたことがあった。業界では珍しくない表記だが、千葉さんは「障害者の立場を考えてほしい」と強調する。
「たしかに、障害のある人たちにはリスクがあります。でも、この表記は障害者が挑戦の入り口に立つこともできずに、最初から排除されたような一文に感じます」と、悲しみと怒りをにじませた。

さらに「本番中に具合が悪くなり、降板になった場合のリスクが大きい」などと、障害の有無に関係なく誰にでも起こり得ることまでが理由に挙げられ、強いショックを受けたという。
「心身ともに健康であれ」。前向きでプラスな印象を与える表現だが、その基準から外れた人たちにとっては線引きの言葉であることを思い知らされる。
千葉さんは舞台に出演するだけでなく脚本・演出も担当している。
取材時は、自身が妖怪好きということもあり『化け猫の呪い歌』という劇の練習に励んでいた。主役の化け猫を障害者、村人を健常者とみなして描かれている。
村人たちは化け猫を怖がり、疎ましく思っている。それに対して化け猫は「なら、化け猫の血を授けよう」と襲い掛かる―。これまでの千葉さんの困難だった人生を投影した物語だ。
「障害があることでつらくて、悲しい経験をたくさんしました。周りの人に受け入れてもらいたかったです。そんな思いから全ての人を受け入れたくて、劇団月見座をつくりました」
「ノーと言わない劇団」。千葉さんのモットーだ。
目下の夢は、大阪府障がい者芸術・文化コンテストに出場し、劇団月見座としてグランプリを取ることだ。

「僕自身は障害を個性だと思っています。耳が聞こえなくて手話をする人、視覚障害で誘導されながら歩く人の姿も一つの個性。手を取り合える環境があれば、明るく生きていけます」と笑顔を見せた。
【用語解説】就労継続支援B型事業所
一般企業で働くことが難しい障害者が、軽作業などを通じた就労の機会や訓練を受けられる福祉事業所。障害者総合支援法に基づいている。工賃が支払われるが、雇用契約を結ばないため、最低賃金は適用されない。