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インタビュー

橋渡しインタビュー

このはさんが届ける愛のユーチューブ 障害超えて

2025年1月5日

 愛知県のある家庭から配信されている動画投稿サイト「ユーチューブ」の「このらぶチャンネル」。2022年1月に開始し、登録者数は6万人以上に上る。先天性の障害を持つこのはさん(21)と母親(47)が、私生活を赤裸々に紹介。動画を見た学生から「自分も頑張ろうと思って学校に行った」との感想が寄せられるなど、視聴者の背中を押している。どんな暮らしをしているのだろうか。

人よりも、ゆっくり成長していく娘

 このはさんは「コルネリア・デランゲ症候群」という、1万〜3万人に1人の割合で起きる先天性疾患を持つ。手足の奇形や難聴、腸閉塞や多毛症、発達の遅れなどが見られる。身長は約130センチと小柄で、外出時は車いすに乗って移動する。

(※アイキャッチ兼用)このはさん(左)と母親
このはさん(左)と母親

 平日は自宅から生活介護事業所へ通い、支援員に教わりながら軽作業を行うほか、絵や音楽などで余暇の時間を過ごす。

 家族との会話は、基本的にジェスチャー。何か伝えたいときは自分から両親の腕をトントンとたたき、何をしてほしいかアピールする。

 ここ最近は、思春期に入ったようだという。会話が難しく自分の思いをうまく伝えられないため、ストレスから感情が抑えられずにかんしゃくを起こし、大声を出してしまう。

 苦しくなると自ら母親に駆け寄り、ハグを求める。母親は優しく抱きしめる。逆に「バイバイ」と言いながら母親から離れ、部屋でひとり格闘する日もある。

 一方で、理解できることも徐々に増えてきた。今まで興味を示してこなかった「言語絵カード」に視線を送るようになった。「飲みたい」や「おかわり」などのカードを指さし、気持ちを伝えようとする回数が多くなったという。

コロナ禍を機に配信開始

 母親がユーチューブ配信を始めたきっかけは、コロナ禍だった。「娘と同じ病気で悩んでいる家族に、元気を届けたい」。過去に、娘と同じ病気の子どもを持つ親のブログを読んで、自分自身が救われた経験があったからだ。

20歳のときには写真館で成人の写真を撮影した
20歳のときには写真館で成人の写真を撮影した

 これまでに250本以上の動画を公開した。撮影は週1回。カメラマン担当は父親で、動画編集は母親が行う。夫婦で役割分担を決め、娘の日常を捉える。

 決して調子がいいときだけとは限らない。その場で物を投げ、自分の頭をたたく自傷行為などのハプニングが起きる。「このちゃん、頭は大事、大事ね」と母親が止めようとするが、簡単には収まらない。

 初めて事業所に出かけ、楽しそうに帰ってきた様子の動画では、自宅で緊張の糸がほぐれて、うなるような声を出していた。娘の表情を見た母親は「よく頑張ったね」と優しく褒める。見ているこちらまで癒やされるような褒め方だった。

 動画が人気なのは、このはさんだけでなく、母親の言葉掛けや穏やかな声質も影響しているのかもしれない。また、障害の有無に関係なく、育児のヒントや夫婦関係などで参考になる内容も多くある。

 だが、母親は「今後、娘が成長する中で、どう続けていくかが悩みどころです」と漏らす。

 視聴者は「お母さんの育て方が素晴らしい」「このはちゃんかわいい」と温かいコメントで応援する人が多いが、中には心ない書き込みもあるという。障害を持つ子の子育てについて、さまざまな考えや主張があることを改めて痛感している。

子どもを産まなければ分からなかった

 このはさんは2003(平成15)年10月生まれ。妊娠7月目に横隔膜に穴が開いている「横隔膜ヘルニア」と診断された。出産は帝王切開。人工心肺装置(ECMO、エクモ)を使用し、たくさんの管につながれながら、生まれたばかりの体で人工膜を入れる手術に臨んだ。

生まれたばかりのこのはさんの顔を見て、笑顔があふれる
生まれたばかりのこのはさんの顔を見て、笑顔があふれる

 母親が、わが子を抱いたのは生後27日目。だが51日目には、コルネリア・デランゲ症候群と診断された。出産前に想像していた育児とは違い、ショックを受けたが、夫婦で「命だけは助かってほしい」と毎日すがる思いで祈った。

 数年後、このはさんに弟ができた。このはさんは興味津々で赤ん坊の顔をのぞき込み、肌に触れた。母親は周りのママ友たちからアドバイスをもらい、姉弟のバランスに気を配りながら子育てをした。

 今では背丈の伸びた弟に、このはさんは一歩距離を置いているという。弟はときどき自分から話しかけ、「姉ちゃんが癒やし」と、姉を大事にしている。

 「障害のある子を生んだことで世界が広がった」と、母親は言う。「昔は自分のことばかりに気が向いていたけれど、娘を育てる中で『もっと人のために何かできないか』と考えるようになった。私自身が一番変われたんです」

 「娘の笑顔が最高にいい」と絶賛する母親は、これからも愛情いっぱいの子育てを続けていく。

次の動画をお楽しみに
次の動画をお楽しみに

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