2025年7月27日
横浜市内に住む村田雅美さんは、人気ぬいぐるみ作家として活動する一方、神奈川県海老名市にある障害者雇用の屋内農園「IBUKI SAGAMINO FARM」(IBUKIさがみ野ファーム)で管理者をしている。水耕栽培でハーブや野菜を育て、障害のある人たちの仕事をサポートするのが役割だ。
2021年から就労し、現在のさがみ野ファームには22年から勤めている。出勤は週3回。さわやかなグリーンの建物に入ると、室内は農園のイメージを感じさせないシェアオフィスのような雰囲気だった。
仕事中は支援する障害のある人々を「メンバー」と呼んでおり、3人のメンバーと共に水耕栽培を行っている。

IBUKIは福祉就労ではなく、企業への一般就労で障害者雇用を支えている。障害者雇用を促進したい企業がIBUKIの施設内を利用し、安心して働ける環境を整えた上で、雇う仕組みだ。
村田さんのような管理者が常駐することで、企業側も円滑に就労を支援でき、障害者も安定して働けるという。
管理者は、業務の指導以外にも週1度、メンバーと面談する。業務内容や健康状態、人間関係などについて話を聞く。
「純粋なメンバーさんの一言でハッとすることや、核心めいたことを言われて『そうか、そういう考え方もあるのか』と、私自身が学びになっています」
あるメンバーは、自分のことだけに集中しがちな特性を持っていた。仕事で困ってもすぐに質問せず、一人で考え込んでしまう癖があった。普段から分からないことはすぐ質問するよう伝えていたが、なかなか村田さんを頼ろうとしなかった。
理由を尋ねると「自分で考えたかった」「質問すると村田さんの時間を奪う気がした」などと答えた。村田さんのことを思いやり、遠慮していたのだ。障害の特性だけでない、メンバーの新たな一面を知った瞬間だった。

一人一人の得意なこと、不得意なことはさまざまだ。メンバー同士のコミュニケーションで苦労する場面があると、村田さんは仲介に入る。できるだけメンバーたちがストレスをためずに仕事できるよう、見守っている。
「普段から、良いところをたくさん見つけて褒めることを大切にしています。ただ、注意することが必要な場面では、本人にとってプラスなこととマイナスなことを、バランスよく伝えるように話しています」と語る。
村田さんは小さい頃から、ものづくりや動物が好きな子どもだった。美大に進学し、ひな人形メーカーが募集していたぬいぐるみデザイナーになろうと入社。デザイン課に配属され、講師の下で3カ月間人形作りの基礎を教わった。自分で手がけた初の人形は、鳥のキウイだった。

晴れてデザイナーとしてデビューし、心を込めて人形制作を行った。だが、工場に発注し、大量生産で作られる人形たちは、村田さんがデザインしたものとは違った形で出来上がってくることが多かった。
当然、修正されることはなく、次々と全国のおもちゃ店に出回っていく。仕事だからと割り切れる部分はあるが、原型と量産品の違いにフラストレーションがたまっていった。
その後はキャリアを積み重ね、30代半ばからフリーランスで活動。「noconoco」という屋号で、世界に一つしかないオリジナルの人形作りに専念している。夜から明け方にかけて制作することが日課となり、アートフェアに出展することで、次第に認知されるようになった。
現在は年に数回、百貨店やセレクトショップで販売会を実施。遠方から買いに来るファンもいるという。
だが2020年以降、コロナ禍を境に作家活動は低迷する。同じ頃、発達障害のある身内の画家と話したことを機に、今後の働き方について考えた。
障害があることで、思うように働けない現実があることを知り、「ハンディがあっても安心して過ごせる場所があれば」という声を聞いた村田さんは、まずは障害のある人々のことを知るために、IBUKIで働き始めたのだという。
村田さんの夢は、障害のある人や子どもたちに向けた社会活動を、地域で行うことだ。今はまだ具体的ではないが、これまでの経験から、自分にできることは何かを漠然と考えている。

「必ずしも、ものづくりをしなくてもいい。歌やダンス、植物を育てるといった興味のある表現ができる場所を提供できたら」
IBUKIのメンバーは20〜60代と年齢層が幅広いが、柔軟な発想やアイデアを持っているという。今後、彼らのひらめきが夢のヒントになるかもしれない。メンバーとの出会いが、村田さんの生活に影響を与えていることは確かだ。