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インタビュー

橋渡しインタビュー

片手で装着、笑顔のアクセサリー 小島知加子さん

2023年3月9日

 障害があっても片手で着けられる「バリアフリーアクセサリー®」認定講師の小島知加子さん。15年前、突如右半身麻痺(まひ)になり、好きだった手芸ができなくなって落ち込むことがあったが、2年前にインターネットで知ったバリアフリーアクセサリーに新たな可能性を見つけた。現在は住まいのある名古屋を中心に活動しつつ、年に数回は体験会を開くために1人で上京。日々リハビリを続けながら、教えることに生きがいを感じている。

 2008(平成20)年6月。小島さんは夜、自宅でパソコンに向かっていると、突然マウスをクリックできなくなった。全身の力が抜け、救急搬送された。脳出血だった。

 何の前兆もなく右半身麻痺になり、利き手が思うように動かせなくなった。急性期病棟から回復期に移り、5カ月にわたるリハビリを開始。左手を使う練習をして工夫すれば、自宅に戻った後も掃除や調理などの家事ができると知った。

 当時は病院内で一緒にリハビリをする患者は高齢者ばかり。同じ世代の友達もできず、片麻痺で暮らす情報さえもなかなか入ってこない時代だった。病院内を見渡し「何で私がこんな目に」と落ち込んだ。

バリアフリーアクセサリー認定講師の小島知加子さん
バリアフリーアクセサリー認定講師の小島知加子さん

退院してからインターネットで片麻痺の情報を探していると、30〜50代の女性を対象とした片麻痺サークルを見つけた。同じ環境で暮らす人たちにメールで気軽に相談でき、夕飯の献立から爪切りの方法まで教え合う仲間の存在に助けられた。

 小島さんはメンバーの中では年が上の方だったが、片麻痺になった期間は短かった。若くして病気や事故で片麻痺になった女性たちの生きる強さに、刺激をもらった。サークルは解散したが、今でも交流は続いている。

 生活は夫と2人暮らし。できる範囲で家事をしながら訪問介護を利用し、トイレや浴室掃除、新聞を束ねる作業などを依頼している。補助具を使って野菜を切るなどできる調理は行うが、カボチャなどの硬い野菜はヘルパーに頼んでいる。配食サービスも利用し、できないことは外部の力を借りている。

 子どもの頃から手芸や編み物が好きだった小島さん。大学で洋裁を学び、パッチワークや人形作り、またピアノの講師も行うほど手先が器用だったが、片手しか使えないことの難しさを痛感していた。両手を使うことが前提のレシピを見ながら途方に暮れ、何をしていいか分からずにもがいた日々は、長かったという。

画期的なおしゃれ

 片麻痺になってからは、ファッションも以前と変わった。片手しか使えないため金具を留めにくく、60センチ以上の長いネックレスしか着けることができなくなった。

 そんな時、ネットで見たバリアフリーアクセサリーに目が留まった。

 片手で制作し、手伝いを頼むことなく自分で装着ができるアクセサリー。気になって体験会への参加を申し込んだ。

片麻痺があっても着けやすいアクセサリー
片麻痺があっても着けやすいアクセサリー

 バリアフリーアクセサリーは「着ける・作る・教える」の3本立て。参加者は障害があるなしに関係なく、片手でアクセサリーを制作する。まさに自分のために誕生したような講座のように感じられた。

 ワイヤーにビーズを通すことは同じでも、金具の大きさや素材を変えることで、装着の負担は軽減される。制作する方も、片手で完成させることができる。

 ネックレスの長さを気にしなくてよくなったことで、今まで諦めがちだったおしゃれができるようになったのは、画期的だった。他にも時計やブレスレットなど、あらゆる装着品が片手で身に着けられることに喜びを覚えた。

 「私にはこれしかない」。そう思った小島さんは、講師になる決意をした。

 バリアフリーアクセサリー認定講師になるには、専用コースを受講する必要がある。小島さんは、オンラインでは健常者の受講生と同じように学べるか不安になり、個人レッスンを希望。1人で上京し、ホテルに講師を呼んで個人レッスンを受け、昨年6月に見事、講師の資格を取得した。

課題で制作する時計も品があって使いやすい
課題で制作する時計も品があって使いやすい

周りの人たちを笑顔に

 小島さんの友達に、同じく片麻痺で1人暮らしの女性がいた。両手が使えなくなってからは冠婚葬祭用のネックレスができず諦めたという相談を受けた。

 「私が直してみようか」。小島さんは時間をかけて、真珠のネックレスに付いていた複雑な金具を簡易なマグネットに変え、一人でも着けられるよう手直しした。友達に渡した瞬間の笑顔が、小島さんにも元気を与えた。

手直しをした真珠のネックレス
手直しをした真珠のネックレス

 他にも、好きなアイドルと同じアクセサリーが欲しいと希望する片麻痺の友達に、画像を見ながらできるだけ近い物を制作してあげた。「少しでも雰囲気の近い物を着けて、おしゃれを楽しんでほしかった」

 最近は、地域の交流会やデイサービスのイベントに講師として呼ばれ、バリアフリーアクセサリーの体験会を行っている。「先生」と声を掛けられるたびに、どこか懐かしく心地良い気分になった。健常者で両手が使えていた頃、ピアノ講師として生徒に教えていた頃のことを思い出していた。

講師活動も充実し生徒さんも楽しんでいる
講師活動も充実し生徒さんも楽しんでいる

「これからは、片麻痺の人に特化したアクセサリー作りを広めていきたい。同じ障害がある方たちに、笑顔と明るい未来を届けたい」と、小島さんはほほ笑む。

 今日も時間をかけて、ワイヤーにビーズを通し、身に着ける人たちの表情を思い浮かべながら、制作を続けている。

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