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インタビュー

橋渡しインタビュー

盲導犬は生きる原動力 福井恵子さん㊤

2023年3月22日

 埼玉県入間市の福井恵子さん(73)は2002(平成14)年から盲導犬ユーザーとして生活する。入間市視覚障害者福祉協会会長を務め、どこへ出かけるにも三代目パートナーの「ピーチ」と一緒だ。ピーチは福井さんの元へ来て今年で8年目。盲導犬は10歳前後で引退しなければならないため、ピーチとも別れの時期が近付いている。「一日一日がとても貴重」と話しながら、ピーチを優しくなでる福井さん。学生時代から視覚障害によるさまざまな困難を乗り越えた強さの理由と、盲導犬との暮らしについて聞いた。

人の2倍も3倍も努力する

 福井さんが診断を受けたのは高校1年生の時。医師から告げられた病名は網膜色素変性症=用語解説=だった。

 当時は全く見えなかったわけではなく、心の中では「私は大丈夫!」と、なんとなく思っていたという。

 しかし、高校生活では教科書を読むだけでもひと苦労。じっと見つめなければ字が判別できなかった。授業が終わると、次回の教科書のページを確認しながら、万年筆でなぞって暗記する。そうやって予習をしなければならないほどの状態だった。

 体育の授業でも失敗ばかり。運動神経は悪くないのに、ボールが飛んできても見切ることができず、受け止めきれなかった。跳び箱では走って踏み台に近づくと、直前で位置が分からなくなり、どこに手をつくべきか判断がつかなくなった。

 「鈍臭い子だと周りからは思われていたかもしれません。よくテストで赤点を取らなかったなと思います。友達よりも2〜3倍の努力が必要でした」と振り返る。

笑顔の福井さんとピーチ
笑顔の福井さんとピーチ

 卒業後は幼稚園の教諭を目指し、仕事をしながら通信教育で学ぼうとした。だが、さらなる視力の低下で、教科書も読めなくなっていた。幼稚園で必須のピアノも習ったが、楽譜を拡大鏡で見ながら、右手と左手の指の動きを暗記しないと弾くことができなかった。

 普通ならそこでくじけてしまいそうだが、福井さんはすぐに諦めなかった。正職員ではなかったが、3年ほど保育の仕事に携わった。

 残念ながらその間も視力は落ち続け、視野狭窄(きょうさく)で色彩も分かりにくくなった。園児が走り回るとぶつかるのではないかと心配になり、保護者からあいさつをされてもどの園児の親か分からなくなった。

 そこで20歳の時から、将来を見据え、点字を学んだ。働きながらの独学だった。

 憧れの保育の仕事から離れた後は、三療(あん摩マッサージ指圧、はり、きゅう)の勉強を開始。その縁で出会った夫と26歳で結婚した。

 2人の子に恵まれ、顔を近づければかわいい子どもの表情も分かった。健常の母親と同じように育てたいと思い、工夫して手作りケーキを作るなど、できる限りのことをした。

 自分の障害について、じっくりと子どもたちに話したことはなかったが、自然と身の回りの手伝いをしてくれたという。

福井さんを安全に目的地へ連れていくピーチ
福井さんを安全に目的地へ連れていくピーチ

 「私の視力があるうちに、どうにか大きくなってほしい」と強く願ったが、娘が中学3年生、息子が小学6年生の時、ついに全盲になった。2人の卒業式には、子どもの友達の保護者に手を引いてもらって参列した。

子どもたちの巣立ちで新たな目標

 子どもたちが自分の障害のせいで夢を諦めたり、巣立っていくことを躊躇(ちゅうちょ)したりすることがないよう、福井さんは目標を50歳で掲げた。「盲導犬がいる生活を送ること」と「パソコンで文章を書けるようにすること」だ。

 福井さんは、ちょうど娘が就職で実家を出るタイミングで、盲導犬を迎える決心をした。

視覚障害者用の腕時計。文字盤を触ると時間が分かる
視覚障害者用の腕時計。文字盤を触ると時間が分かる

 パソコンは知人に教わった。習う前にキーボードを膝に置いて専用ソフトの音声を聞きながら、文字配列を全て記憶した。

 教わる方も苦労するが、教える側も苦戦したそうだ。

 「知人は健常者なので、全盲でパソコンを触る感覚がよく分からなかったみたいです。試しに目隠しをしながらキーボードを打とうとしたら、全くできなくてすぐに外したと聞いています」と、福井さんはにこやかに笑った。

 福井さんの努力は並大抵ではなく、メールの返信も1人でこなせるようになった。

 盲導犬の話が現実化したのは、まさにその頃だった。

 入間ライオンズクラブから、「市内に盲導犬と暮らしている人がいないから、訓練を受けてみないか」と声が掛かったのだ。福井さんは真っ先に手を挙げたという。

 しかし、すぐに盲導犬が家にやってくるわけではない。希望してから家に迎えるまでには、訓練が必要なのだ。(㊦に続く

【用語解説】網膜色素変性症(もうまくしきそへんせいしょう)

 遺伝子変異が原因で網膜の視細胞や色素上皮細胞が広範に変性する疾患。徐々に進行し、社会的失明(矯正視力0.1以下)となる例が多いが、生涯良好な視力を保つこともある。進行に個人差が大きいといわれる。

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