インタビュー
橋渡しインタビュー
ALS患者と音楽ユニット結成 石川祐輝さん㊦
2022年9月1日
デイサービス琴平（埼玉県所沢市）の生活相談員、石川祐輝さん（40）は、難病の筋萎縮性側索硬化症（ALS）＝用語解説＝を発症した古内孝行さん（42）の介護に、介護福祉士として当たっている。そんな２人が2021年８月、音楽ユニット「たか＆ゆうき」を結成し、動画投稿サイト「ユーチューブ」で楽曲の配信を始めた。利用者と介護福祉士という立場を超え、音楽活動に打ち込むアーティストの２人は22年９月、初のコンサートを開く。
古内さんは、かつて飲食店の店長として働いていた。ある時、右手に力が入らなくなり、店でグラスを落としたり、ゆでたパスタをトングでつかんで持ち上げることができなくなった。
腱鞘炎（けんしょうえん）ではないかと思って病院を受診すると、予想外の診断が下された。全身の筋肉が衰えるALS。2019年6月、39歳の時だった。
家庭を持ち、真面目に仕事に打ち込んできた日々が一変した。退職を余儀なくされ、一時は家に引きこもった。必死の思いで人工多能性幹細胞（iPS細胞）での治験に参加し、ロボットスーツでのリハビリに打ち込むようになった。
そんな中、妻の一美さんが石川さんの勤務するデイサービスで調理を担当していたことから、石川さんに話が伝わった。石川さんは10代の頃から音楽活動を行い、東京・渋谷のライブハウスでロックバンドのボーカルとして歌っていた経験がある。介護職になってからは、現場で歌や演奏のレクリエーションを行っていた。
まだ歩けていた頃、古内さんは石川さんのライブを見に行った。当時はあいさつを交わしただけで、ユニットを結成するとは思ってもみなかったという。
楽曲「瞳の彼方へ」を制作
その後、古内さんは徐々に体に力が入らなくなり「要介護５」になった。食事、排泄（はいせつ）、入浴、外出移動など全ての動作に介助が必要な状態だ。現在は通所リハビリ、訪問診療、訪問リハビリ、訪問マッサージを利用し、自宅で生活を続けている。
入浴介助でデイサービス琴平に通うようになり、石川さんと話す機会が増えた。年齢が近い２人は、それぞれ家庭を持ち、子どもも同年代、音楽好きであることなど共通点が多く、意気投合した。
ある時、古内さんは一美さんと発達障害のある息子への感謝を込めて作詞した「瞳の彼方へ」の歌詞を、石川さんに見せた。「ギターが弾けなくて」と、曲を石川さんに依頼し、メロディーを付けてもらった。２人で制作した初めての楽曲だった。
石川さんは、以前から自身のユーチューブチャンネルで動画を配信していた。そこで古内さんに思い切って声を掛けた。「ALSのユーチューバーなら、バズるよ！」。石川さん自身、難病を受け止め前を向いて生きる古内さんの姿に励まされていたから、確信を持ってそう言えた。
こうして２人の音楽ユニット「たか＆ゆうき」の活動が本格的に始まった。デイサービスの運営時間の終了後に、一室を借りて曲作りや録音を行い、ユーチューブで随時配信。「うまくいった！」と思ったときは打ち上げをし、最大限できることを楽しんでいる。
「お互いに作る曲のテイストは違うけど、認め合うことができました。こういう関係性もあるって伝えていければと思います」と、石川さんは朗らかに話す。
「だんだんとできないことも増えていますが、1日の中で何かしらの楽しみを見つけるようにしています。それは、仕事をしている頃から変わりません。落ち込むことは簡単ですが、工夫して楽しく生きていこうと思っています」。古内さんは声に力を込めた。
自分たちが作り上げた曲を、誰かに聞いてもらいたい。２人は９月29日に初めてのコンサートを開催する。
ALS＝All Love Sings 「ALSになっても歌いたい」
２人にとって、初のコンサートはどんな意味を持つのだろうか。
古内さんは「病気になった本人だけではなく、家族も同じ当事者だと思っています。同じような状況の方たちに聞いてもらえたらうれしい。歌い続けられる限り活動を続けます」。
石川さんは「ここからがスタート！と思って楽しみたいです。この数カ月でオリジナル曲がたくさん完成したので、ぜひ聞いてほしいです」と語る。
「いつか気管切開をする日が来ても、ボイスターを使ってコミュニケーションが取れるようにしたい」と話す古内さんの深い家族への思い。石川さんはそれを真っすぐに受け止め、「彼が歌えなくなる日が来ても、思いや伝えたいことを音にして発信し続けたい」と語った。
難病で葛藤する日々の中で起きた運命の出会い。音楽が、古内さんと石川さんの生きる希望となっている。
All Love Sings コンサート
【日付】2022年9月29日（木）
【場所】所沢市民文化センターミューズ キューブホール
【開場】18：30
【開演】19：00
※グッズ販売は18：00から開始
【料金】大人1,000円
小学生500円
【問い合わせ】080-4182-8989(石川）
all.love.sings@gmail.com
ライブの様子は22年10月９日まで、有料でアーカイブ配信されています。
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【用語解説】筋萎縮性側索硬化症（ALS）
全身の筋肉が衰える病気。神経だけが障害を受け、体が徐々に動かなくなる一方、感覚や視力・聴力などは保たれる。公益財団法人難病医学研究財団が運営する難病情報センターによると、年間の新規患者数は人口10万人当たり約１～2.5人。進行を遅らせる薬はあるが、治療法は見つかっていない。
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