検索ページへ 検索ページへ
メニュー
メニュー
TOP > 橋渡しインタビュー > 障害者クリエイターを育てる 松橋健太さん

インタビュー

橋渡しインタビュー

障害者クリエイターを育てる 松橋健太さん

2024年9月25日

 横浜市南区の松橋健太さん(42)は、ものづくりをメインとした就労継続支援B型事業所=用語解説=立ち上げに向けて奔走している。プライベートでは4児の父親であり、長男と次男には自閉症がある。次男の千惺(ちさと)さん(19)は1年前からアーティストとして絵を描いており、松橋さんは親子の枠を超え、一人の社会人として「稼ぐ」とは、「働く」とは何かを伝えようとしている。

 B型事業所は、職員が用意した軽作業を利用者がこなしていくという施設が多い。1日の工賃も低く抑えられ、自立からほど遠い金額しかもらえないのが実情だ。

 これに対し、松橋さんが構想するB型事業所は、フリーランスや企業に適応できる人材を輩出するのが理想だという。

松橋さんの次男、千惺さんの作品
松橋さんの次男、千惺さんの作品

 ものづくりに関心のある利用者が集い、絵画やクラフト、動画、デザイン、最新のプログラミングなどを各自が手がけるB型事業所にしたいと考えている。

 何を作り、誰に向けて販売していくのか。どうしたら稼げるのか。共に考えることで、松橋さんがサポートしていく。

 「多様性に飛んだ商品を作り、ゆくゆくは課外活動で自ら販売していきます。横浜市の中心部から発信して、いずれは全国展開することを視野に入れています」

 そうした勢いある行動は、自閉症の息子たちを育てる中で、息子たちの将来を案ずる思いからきていた。 

10代からさまざまな仕事に挑戦

 1982(昭和57)年、横浜生まれ。昔から興味のあることを見つけると、後先考えずに行動するタイプだった。
 

次男の千惺さん(左)と健太さん
※アイキャッチ兼用
次男の千惺さん(左)と健太さん

 中学卒業後、高校には進学せず、16歳から働き始めた。10代で結婚し、建設業、露天商、野菜の卸売業など、さまざまな仕事を経験した。

 19歳の若さで父親になり、3人の子宝に恵まれたが、20代で離婚。子どもを引き取ってシングルファーザーになった。母親の手を借りながら13年以上、仕事と子育てを必死に両立させた。

 5年前に再婚。4人目の子となる三男は今春、幼稚園に入った。波瀾万丈(はらんばんじょう)の人生だが、家族仲良くにぎやかな日々を送っている。

新しいジャンルを探す毎日

 自閉症のある長男は、一人暮らしをしながら障害者雇用で働き、次男の千惺さんは特別支援学校高等部を卒業後、地域のB型事業所に通所している。

 千惺さんは、幼い頃から海外アニメが好きで、気が向くとキャラクターの絵を描いていた。この先、社会人として何ができるのか。松橋さんは、絵が得意な千惺さんの特性を生かすために、障害者アーティストとしての活動を本格化させようと応援した。

 だが、絵で食べていくのは決して生半可な気持ちではできない。コミュニケーションに難がある千惺さんに、どこまで伝わっているか不明な部分もある。表情やしぐさで理解力を見極め、作品のマネジメントをしながら何度も対話を重ねている。

 「いろんな角度から話していますが、千惺も周囲に認められたいと強く思っています。息子としてというより、いち社会人としてどうやって稼ぎ、作品を買ってもらえるのかを、自分で努力するよう促しています」

テーマパークの面白さ、スリルが伝わってくる作品
テーマパークの面白さ、スリルが伝わってくる作品

 千惺さんは水彩ペンや油性ペンを画材に用い、カラフルでポップなタッチのイラストを得意としている。目に映る風景や人々の暮らしを描いた作品は、海外アニメの影響を受けた画風と相まって、見る側に元気を与えてくれる。

 どこかで見たことのある作品では勝負できない。新しいジャンルを確立させるためにも、松橋さんはストイックに、千惺さんの描く絵を見てダメ出しをすることが多いという。

 「例えば、『コップをかわいく描いて』と伝えると、自分なりにデフォルメして、要望に応えようとしてくれます。風景や人物の動きに細かさや丁寧さを求めることで、納得しながら描いてもらっています」

 難しいモチーフがあると、時間がかかって手が震えてしまうこともあるという千惺さん。それでも諦めず、悩みながらも一生懸命描いて、完成させる力を身に付けている。

 コンクールで受賞するなど自信を付けながら、着実に成長。その傍らで、松橋さんがグッズ販売を行い、ネットで購入できるよう環境を整えている。

障害があっても、やりたいことを選択する

 松橋さんは「たとえ障害があっても、一方的に人に与えられているばかりではなく、何事も自分で選ぶ選択肢があった方がいい」と話す。

 「もっといい職場に行って工賃を増やしたい、生活を安定させたいと思っている人はたくさんいると思います。その時点で、次のステージに行くチャンスなのかもしれません。自分の人生を選ぶためにも、一歩を踏み出してみてください」

 もし自分で選ぶ余裕がなければ、家族や周りの人たちを頼って相談し、特技を生かして社会の役に立てる努力をすればいい―。

 「僕だってたくさん選択肢を間違えて、眠れない日々を過ごしたこともあったけど、何とかやってこられましたから」。松橋さんは、笑顔で過去を振り返った。

積極的に作品を描き続ける千惺さん
積極的に作品を描き続ける千惺さん

【用語解説】就労継続支援B型事業所

 一般企業で働くことが難しい障害者が、軽作業などを通じた就労の機会や訓練を受けられる福祉事業所。障害者総合支援法に基づいている。工賃が支払われるが、雇用契約を結ばないため、最低賃金は適用されない。

おすすめ記事

error: コンテンツは保護されています