2024年10月1日
大津市を拠点に活動するロックバンド「JERRY BEANS」(ジェリービーンズ)は、今年で結成27年目を迎える。メンバーは3人とも元不登校児でつらい経験をしたが、生きる希望を音楽が与えてくれた。現在は学校を中心に全国から依頼を受け、不登校の体験を語りながら、明るい演奏で誰もが笑顔になれる講演ライブを行っている。
ジェリービーンズのメンバーは、双子の兄弟であるボーカル・ギターの山崎史朗さん(40)、ドラムの山崎雄介さん(40)、ベースの八田典之さん(42)。
出会った当時、彼らはまだ小学5年と中学1年の子どもだった。
1998(平成10)年にバンドを結成し、10代でメジャーデビューを目指して上京。地元滋賀県に戻ってからも精力的に活動を続け、高知県のある中学校の校長先生に出会ったことをきっかけに、現在のスタイルに転向した。
アップテンポな曲調に、滑らかな歌声。聞く人に寄り添う歌詞は、3人の熱い思いが表現されている。
講演ライブは「歌と語りで伝える〜不登校だった僕らの声〜」と題し、小中学校を中心に企業や地域のイベントにも呼ばれている。
命に対する向き合い方や、いじめと不登校が決してひとごとではなく身近な問題であることなど、3人が感じている率直な思いを伝える。コロナ禍前は年間80〜100件ほど開催していた。
講演ライブ後に児童・生徒が書くアンケートの中には「私はいじめられています」「僕は死のうと思ったことがある」などと、悲痛な思いを訴える文章が書かれていることもある。
雄介さんは「僕らに送られてくる前に、担任の先生がアンケートをご覧になります。そこで初めて知った事実もあるそうで、講演ライブの意義を強く感じます」と語った。
山崎さん兄弟と八田さんはなぜ、不登校になったのか。3人とも小5から中3まで、ほとんど学校に通ったことがなかったという。
史朗さんは感受性が強く、人の気持ちに敏感な子どもだった。クラスの子がいじめに遭っているのを見て、止める勇気がなく、次第に自分を追い込むようになった。腹痛を訴え、ベッドの下に隠れるなどして親から逃げ回っていた。
雄介さんは集団行動が苦手で、成長するにつれて徐々に心を閉ざし、しんどい思いを誰にも話せないでいた。ある日、担任から言われた何げない一言がきっかけで、不登校になる。生きる希望を見失い、部屋で自殺を試みたこともあったが、母親が止めに入って命に別状はなかった。
八田さんは、友達との関係にストレスを抱えていた。自律神経失調症との診断を受け、不登校に。中学では修学旅行に行ったが、毎日通うことはできなかった。
3人は、ある日いきなり不登校になったわけではない。徐々に学校生活に苦痛を感じるようになり、助けを求められないまま、玄関からの一歩が踏み出せずにいた。
学校を休んでも、気が休まる時はなかった。家でゲームをしながら、罪悪感でますます気分が鬱々(うつうつ)とした。「自分はダメだ」とマイナスなことばかり考え、負のループに陥った。
親も子どもが学校に行かず、家にひきこもる姿を見て心配していた。
山崎家では、5歳上の姉も不登校だった。親子で激しく衝突する姿を見てきただけに、「うちの家族はみんな変なんだ」と、史朗さんは思い詰めてしまった。
しかし、母親は雄介さんが自殺未遂をした際に「学校に行かないのが、死ななきゃいけないほど悪いことなのか。お母さんは、あなたたちが元気で生きているだけでいい」と、子どもたちを全力で守った。
そんな3人は1994年、不登校の親の会で出会った。同じ地域に住んでいたこともあり、すぐに意気投合。当初は毎日外で遊んでいたが、八田さんがギターを弾くのを知って山崎兄弟も練習を始めた。
夢中になれるものを見つけた3人を見て、親たちはたいそう喜んだという。
その後、家族の協力を得て、山崎家の部屋の一室をスタジオにした。父親たちが発泡スチロールを壁に張り、手作りの防音スタジオを完成させた。昼間から集まって、好きな音楽に好きなだけ打ち込むことで、本来の自分を取り戻していった。
次第に近所でうわさが広まり、同級生が「ギターを教えてほしい」と訪ねてきた。家に上げ、スタジオで一緒に演奏し、楽しい時間を過ごした。学校でなくても、仲良くできる友達が増えたことで自信が生まれた。
そのうち3人は、地域のお祭りで歌うために、自分たちの学校の前で全校生徒にチラシを配るという大胆な行動に出た。
表舞台に立つ機会が増え、周囲の応援もあって、ライブハウスを借りるまで成長。「自分たちには音楽がある」と思うと、がぜん生きる気力が湧いていた。
結成時からほぼ休むことなく活動を続けてきたジェリービーンズ。2019年にはNPO法人「好きと生きる」を設立した。
今、3人はどんな言葉を伝えたいのか。
「人との出会いは想像もできないほど可能性に満ちていました。今では僕も地域のコミュニティーに力を入れ、新しいことに取り組んで前に進んでいます」(史朗さん)
「毎日に絶望していた僕がたくさんの子どもたちと出会い、自分の経験が役に立つと知りました。今を生きている君が、何よりすごいということをこれからも伝えていきます」(雄介さん)
「しんどいこともありますが、みんなで優しい社会をつくっていき、大好きな音楽活動を通して『自分のペースで自分らしく生きる』僕たちの姿を見せていけたらと思います」(八田さん)
40代の彼らが、子どもたちに自分の弱さや強さを素直に見せる。うそをつかない大人の姿に、親近感を持つ子どもは少なくないだろう。