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ケアする人を支えたい 「小さなグループワーク」

2025年3月4日 | 2025年3月5日更新

※文化時報2024年11月8日号の掲載記事です。

 心のケアに取り組む人たちは、誰に支えられているのだろうか。大阪市内に拠点を置くNPO法人いのちのケアネットワークは、医療・福祉現場で働く人の疲弊や孤独を和らげる活動を続けている。力を入れるのが「小さなグループワーク」。代表理事の椙山(すぎやま)女学園大学講師の森川和珠(わこ)さんは言う。「『一人じゃない』と『これが私』が同時にあることを感じてほしい」

「いまここシート」で対話

 小さなグループワークはコロナ禍だった約3年前、グリーフ(悲嘆)ケアやスピリチュアルケア=用語解説=を行う人のために始まった。JR西日本あんしん社会財団の助成を受けながら、大阪市内で半年に1回程度のペースで開催している。

 森川さんや円滑な進行を促すスーパーバイザーを含めて、上智大学グリーフケア研究所のグリーフケア人材養成講座を受講した人たちを中心に、全国から参加者が集う。

 グループワークの肝になるのは「いまここシート」。A4判の紙にいくつかの質問項目が記されており、今日の調子や自分の周りにあるもの、自分の世界などを言葉や絵で表してみることで、「今、ここ」にいる自分を顧みるのが特長だ。

森川さんが作成した「いまここシート」
森川さんが作成した「いまここシート」

 記入が終われば、参加者4、5人とスーパーバイザー2人が輪になって座り、20分ずつ順番に話していく。シートに書いたことや、そうでないことも自由に話せる。一通り話し終えたところで、一人一人が感じたことを伝えていく。「ここは感情を大事にして話し、聞く場」と、森川さんは語った。

 10月6日のグループワークで最初に話したのは、吉田晴代さん(68)。小学校の教員を定年退職し、現在は機織りや染色といった創作活動とグリーフケアの2本柱が自分の中にある、と自己紹介した。

 自宅のある大阪府高槻市や茨木市でグリーフケアの会を開くボランティア団体を立ち上げたが、「最初は自治体の窓口でなかなか理解が得られず苦労した」と打ち明けた。自分の作品が入選することが自身のケアになっていて、表現したいものがグリーフケアにつながっている、との実感も語った。

 「エネルギッシュなものを感じた」「研究所時代と変わって、明るくなった」。そんな言葉が飛び交い、吉田さんは「何を言っても安心できる、受容してもらえる雰囲気がある場所だと思う」と振り返った。

 他にも、スタッフが円滑に業務をこなせるよう改善を提案しても上司に取り合ってもらえず、職場で認めてくれない―と悩みを語った女性もいた。

分かち合いで気付く

 森川さんは2022年に提出した博士論文で、「スピリチュアルケアに取り組む支援者の実践的サポート」をテーマに選んだ。上智大学グリーフケア研究所を修了した3人と共に研究会を立ち上げ、アイデアを出し合って「いまここシート」をつくった。

活動の意義を話す森川和珠さん
活動の意義を話す森川和珠さん

 書いていてつらくならないこと▽誰でも書けること▽優劣がつかないこと▽自分だけでなく他人と関わっている事実を再確認すること―を重視してつくったという。

 「ケアに携わることは重たく、力量のある人でないと折れてしまう。続けることができていても、孤独になってしまう」。森川さんは、ケアする人がそうした問題に直面しても、同じ仲間と交流することで力を取り戻せると考えた。シートなら、自分自身と対話しながら、他の人との分かち合いにも使えるというわけだ。

 グループワークでは、単なる感想を言い合うのではなく、相手の話を聞いて感じたイメージや、自分の感覚を基にして、相手に伝えるようにしている。それによって「場」が動き、相手が新たなことに気付くのだという。

 森川さん自身、当初はシートの効用について半信半疑だったが、研究所内から多くの反響があり、想像以上にニーズがあると分かった。

 今では看護師による職場面談や、遺族会を行う前にスタッフが心の状態を整える目的で使用しているといった声が届く。

1000人より1人に

 森川さんは今年9月に行われた日本宗教学会学術大会で、「ケアする人のケア」をテーマにしたパネル発表に登壇。ケアする人も、自他のスピリチュアルペインなどについて知り、ケアされることで、支援者としての成長や支えにつながっていくとの考えを示した。

 元々は高齢者介護の現場や老人ホームを売る会社で勤務しており、「自分の仕事のケアの質を確かめたい」と思って上智大学グリーフケア研究所の門をたたいた。

 しかし、多忙な職場環境でスタッフにスピリチュアルケアまで求めるのはハードルが高く、研究所にも修了後のフォローがないことに気付いた。養成しても質の高いケアをできる人材が長く丈夫に世の中に残らないことに、危機感を覚えた。

ケアする人が輪になって行う「小さなグループワーク」
ケアする人が輪になって行う「小さなグループワーク」

 森川さんは「遺族会やホスピスだけでなく、普段から日常空間にケアできる人が多くいてほしい」と話し、専門職だけでなく、今困難を抱えている人との対話にも「いまここシート」を使ってほしいと願っている。

 活動を無理に広げていこうとは思っていない。「1000人に少しずつ伝えるよりも、1人に100を伝えたい」と、笑顔で語った。

【用語解説】スピリチュアルケア

 人生の不条理や死への恐怖など、命にまつわる根源的な苦痛(スピリチュアルペイン)を和らげるケア。傾聴を基本に行う。緩和ケアなどで重視されている。

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