2025年5月29日
※文化時報2025年2月18日号の掲載記事です。
障害のある人の家族支援に関する実践と課題について考える講演会が4日、東京都新宿区の早稲田大学戸山キャンパスで開かれた。一般社団法人親なきあと相談室関西ネットワーク(大阪市東淀川区)で代表理事を務める藤井奈緒さん(51)が登壇。オンラインを含む参加者約20人を前に、いわゆる親なきあとが社会的孤立の問題だと伝えた。
親なきあとは、障害のある子やひきこもりの当事者が親に面倒を見てもらえなくなった後、どう生きていくかという問題。最近は8050問題=用語解説=やヤングケアラー=用語解説=と地続きとの指摘もある。
重度の知的障害がある長女(21)の母親でもある藤井さんは「親の庇護(ひご)の下で暮らしてきた子どもは、親なきあとに社会に放り出されることで、場合によっては放置され、命の危険につながる」と強調。
「育て方が悪い」「家族が面倒を見て当たり前」などといった中傷や無理解により、親自身も生きることを否定される経験をしているとして、「親なきあとは社会的孤立の問題」と訴えた。
その上で、自身が理事兼アドバイザーを務める一般財団法人お寺と教会の親なきあと相談室(京都市下京区)の活動を紹介。「ご縁がつながる」「聴き合う」「助かり合う」という同相談室の特長を挙げ、「私たちには心の寄る辺が必要。最期は独りでないという安心がほしい」と述べた。
今回の講演会は、早稲田大学総合人文科学研究センターの「現代社会における危機の解明と共生社会創出に向けた研究部門」が主催し、研究所員を務める久保田治助教授(社会教育学)が企画した。
部門代表の村田晶子教授(同)は冒頭、「親なきあとは深刻なテーマ。家族主義を超えて包摂的な社会をつくるという問題意識を共有したい」と参加者らに語り掛けた。
参加者は大学教員や大学院生、障害のある人の親や支援者など、立場や属性はさまざまだった。それでも質疑応答と意見交換を通じ、それぞれが親なきあとを社会課題として捉え直した。
大学院文学研究科教育学コース修士2年の竹澤佑未さんは、地元の福井県で障害者グループホームの運営に携わった経験がある。「つながりがあっても、きちんとつながれていない状態だから、支援からこぼれ落ちるのだと納得した。お寺で自由に語れるのは、安心感があってすてきな活動だと思う」と話した。
鹿児島市のむれが岡保育園園長、川原園正史さんは「少し厚かましいぐらいになってきっかけをつくらないと、支援を断られてしまう現状がある。きょうの話を現場に落とし込んで、実践につなげたい」と語った。
久保田教授は「学校に所属する専門職で障害のある子のいる人は、意外と福祉のネットワークにつながっていない。学内でこのような話のできる機会を設けられたことがよかったと思う」と総括した。
【用語解説】8050問題(はちまるごーまるもんだい)
ひきこもりの子どもと、同居して生活を支える親が高齢化し、孤立や困窮などに至る社会問題。かつては若者の問題とされていたひきこもりが長期化し、80代の親が50代の子を養っている状態に由来する。
【用語解説】ヤングケアラー
障害や病気のある家族や高齢の祖父母を介護したり、家事を行ったりする18歳未満の子ども。厚生労働省と文部科学省が2021年4月に公表した全国調査では、中学2年生の5.7%(約17人に1人)、全日制高校2年生の4.1%(約24人に1人)が該当した。
埼玉県は20年3月、支援が県の責務と明示した全国初の「ケアラー支援条例」を制定。24年6月に施行された改正子ども・若者育成支援推進法で、国や自治体が支援に努めるべき対象としてヤングケアラーが明記された。