2023年4月2日 | 2023年4月3日更新
※文化時報2023年2月3日号の掲載記事です。
子どもたちに無料や低額で食事を提供する子ども食堂=用語解説=。貧困家庭や孤食の子どもを支援するために始まった活動は年々裾野を広げ、全国のお寺でも盛んに行われている。京都市南区の真言宗泉涌寺派城興寺(上原慎勢住職)は、境内に離れを建てた上で開催。親子連れからお年寄りまで、世代を超えて心尽くしの料理を味わい、スタッフには主婦や大学生、中学生も加わるなど、老若男女の憩いの場となっている。(奥山正弘)
JR京都駅八条口から徒歩8分。1月19日、城興寺の子ども食堂「おてらごはん わくわくしょくどう」の会場となったのは、境内の離れ。門前にはのぼりやチラシが掲示され、参加者を温かく迎えた。
一番乗りは京都市右京区の𡈽井正美さん(75)。約1時間かけてバスで訪れた。「ご住職と親しく話せるので、お寺の分からないことが聞けるいい機会。話すと生きる力をもらえます」とはつらつとした笑顔。昨年10月の初回から毎回参加している〝常連〟だ。
メニューは赤飯に豚汁、蕪のあんかけ、ミカンなど、栄養満点。コメは協力業者や檀信徒らから寄進してもらい、野菜は地元の栽培・販売業者が提供した規格外品を使った。
スタッフは地元の主婦や大学生ら約10人。午後2時ごろ集合し、分担して料理の下ごしらえや会場設営に励んだ。調理が好きな中学生も加わり、楽しそうに豚汁の具材を切った。
リーダーは調理師の髙橋啓吾さん(37)。「子どもさんが食べやすいようなメニューと味付けを心掛けている。『おいしかった』と喜んで帰ってもらうことが、スタッフみんなの楽しみ」と語る。
「おいしいご飯を食べられて、楽しく遊べる。子どもたちにふさわしい居場所です」。0歳児の赤ちゃんから中学生まで5人の子を連れて参加した女性(35)は、屈託のない表情で話した。その隣で、1人で参加した小学3年の男児が豚汁をすすり、赤飯をおいしそうに頬張った。
「離れは日常生活をする母屋に対して、プラスアルファの機能を担うもう一つの小さな家。まちの誰もが気楽に集える空間にしたい」。上原慎勢住職はこんな思いで昨年6月、境内に平屋建ての離れを建設した。
写経会や瞑想体験、お花教室など市民対象の講座や集いを定期的に催し、地域住民のコミュニティースペースとして活用している。一般財団法人「お寺と教会の親なきあと相談室」(小野木康雄代表理事)の相談室支部として行い、障害のある子やひきこもりの子の家族らが悩みを分かち合う「親あるあいだの語らいカフェ」も、会場は離れだ。
子ども食堂も、離れで行う集いの一つ。地域の子どもたちや住民が気軽に集える居場所をつくろうと、昨年10月から毎月第3木曜の午後5~7時に開いている。大人300円、中学生までは無料。お年寄りたちが古いゲームやおもちゃ、絵本などを持ち寄り、子どもたちと膝を突き合わせて昔遊びを楽しむほほ笑ましい光景が見られる。
「昔はお寺が子どもたちの格好の遊び場だった」と、60代の上原住職はわんぱくだった少年時代を懐かしむ。この遠い記憶がほのぼのとした世代間交流の原動力になっている。
「皆さんに協力してもらい、感謝している。これからも派手なことはせず、長続きするよう努めたい」。お寺に来てくれた人たちが元気になるように―。上原住職の地道な挑戦は続く。
【用語解説】子ども食堂
子どもが1人で行ける無料または低額の食堂。困窮家庭やひとり親世帯を支援する活動として始まり、居場所づくりや学習支援、地域コミュニティーを形成する取り組みとしても注目される。NPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」の2022年の調査(速報値)では、全国に7331カ所あり、前年から約1300カ所増えた。