2023年4月7日 | 2023年4月13日更新
※文化時報2022年11月1日号の掲載記事です。
聖地・高野山にある宿坊の一つ、恵光院(近藤説秀住職、和歌山県高野町)は、かつて年間約2万人の宿泊客のうち7~8割を外国人が占めていた。新型コロナウイルス感染拡大で総収入は一時激減したものの、確実に回復している。要因は、日本人宿泊客の大幅増に加えて、供養関連の収入が増えていることも大きいという。
コロナ禍によって訪日外国人客(インバウンド)が完全にストップした2020年、恵光院の総収入は前年の約4割に当たる約1億4千万円まで激減した。しかし翌21年は前年比30%増、22年1~8月は前年同期比50%増となっている。
背景にあるのが、日本人宿泊客の増加だ。19年は約4300人だったのが、21年は約7800人、22年は8月末時点で6400人に上っている。
コロナ前まで、外国人に人気のある高野山では宿泊予約がなかなか取れなかったが、コロナ禍によって日本人が泊まりやすくなったのが大きい。
日本人宿泊客の増加に伴って、永代供養を申し込む人も増えてきた。恵光院では、本堂に永代供養の位牌(いはい)をまつって供養している。位牌の種類は、準本日牌、本日牌、本日牌2霊彫、小日牌、中日牌、大日牌の6種類ある。
依頼は、永代供養料が10万円以上と最も安い準本日牌が一番多く、次いで15万円以上の本日牌2霊彫、50万円以上の小日牌の順。100万円以上の中日牌と200万円以上の大日牌も、年に数件依頼があるという。
日本人宿泊客が増えたこと以外に永代供養が増えている要因について、近藤住職は「コロナ禍になって家族のことを考えたり、話し合ったりする機会が増えた。そうした時、お墓について考え、墓じまいや永代供養について相談することがあるようだ」と話す。
永代供養は通常、葬儀や埋葬を行ったお寺や霊園に頼むのが一般的だが、恵光院では宿泊客が依頼している。なぜなのか。
本堂には、永代供養の位牌がずらりと並んでいる。供養を大切に考えている人もあまり興味がない人でも、「これは何ですか」と尋ねるケースは少なくない。そういう時に、永代供養の仕組みや料金を説明すると、帰宅後に家族と話し合ってから電話で依頼してくる人が多いのだという。
中には、本堂で説明を聞いたその場で決める人もいる。コロナ前には、外国人がすぐに申し込んだ例もあり、恵光院が永代供養している外国人は10人を超える。
宿坊に泊まり、永代供養を頼むという新しい需要が掘り起こされている。恵光院は高野山真言宗だが、「宗派・宗旨を問わずに受け付けていることも要因としてある」と、近藤住職は付け加えた。
高野山にはお寺が117カ寺あり、そのうち宿坊を営んでいるのは約50カ寺に上る。そうした中で、恵光院が評価される理由について、近藤住職は次のように考えている。
恵光院では、本堂での朝の勤行と護摩堂での護摩祈禱(きとう)、密教瞑想(めいそう)の「阿字観」、写経などを行っており、宿泊客には全て無料で体験してもらっている。本堂自体も広くて大きいため、位牌をたくさん安置できる場所があるという。
「誠心誠意、心を込めてお勤めしている。それで『供養を大切にしているお寺』だと感じていただいているようだ」という。
近藤住職は40歳、妻は38歳。「まだ若いから、『自分が亡くなった後もちゃんと拝んでくれそうだ』と安心してくれる人は多い」のだそうだ。
もう一つ、回向料の収入が増えているのも恵光院の特徴だ。
永代供養を依頼した人は、一周忌や三回忌などの法事も同院で行う。法事の件数とともに、お布施も増えてきたという。
また、依頼者は永代供養料とは別に、お布施を包んでくれることが多いという。恵光院側が永代供養や納骨の料金を説明する際、その仕方を少し工夫していることが大きい。「永代供養は10万円から、納骨は5万円から、お布施はお気持ちです」と、一言付け加えるというのだ。
お布施の金額は、1万円か3万円が多いという。
近藤住職は「永代供養や回向料の収入が増えていることに表れているように、当院の信者さまに限らず、日本人には供養を大切に考えている方がまだまだ多いということが分かった」と語る。
今後は、外国人の予約が多すぎて日本人が宿泊できなかった状況を改善し、予約の受け方を調整して、日本人宿泊客を増やしていく。外国人と日本人の比率は、従来はおおむね8対2だったのを、6対4ぐらいにする計画だ。