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臨床美術で気分転換 福祉関係者らにお寺が講習

2023年8月17日

※文化時報2023年6月27日号の掲載記事です。

 真宗佛光寺派本山佛光寺(京都市下京区)の塔頭(たっちゅう)・大善院の境内で、坊守の佐々木美也子さん(68)が臨床美術=用語解説=の講座を開き、福祉関係者らのストレス解消に貢献している。臨床美術士の資格を持ち、僧侶でもある佐々木さんは「仏教者には社会を見つめる目が必要」と話し、「福祉仏教」の視点から伴走型支援に取り組んでいる。(奥山正弘)

脳の活性化に期待

 京都市営地下鉄四条駅から南東へ徒歩7分。5月20日の昼下がりに、佛光寺東側の門前通りにある大善院に併設されたコミュニティースペース「おてらハウス」2階ギャラリーを、40〜60代の男女8人が訪れた。

 「あらっ、お久しぶり。お元気ですか?」。和気あいあいとした雰囲気で、会場は一気に活気づく。佐々木さんが月1回、土曜日に開催している臨床美術講座だ。参加者は障害者・高齢者施設の職員や作業療法士など、福祉関係の仕事に携わっている人が多い。

臨床美術講座で参加者にアドバイスする佐々木美也子さん(左手前から3人目)
臨床美術講座で参加者にアドバイスする佐々木美也子さん(左手前から3人目)

 この日は、バナナの繊細な色合いや皮の触感を感じながら、色画用紙にバナナを描いた。介護職の男性(40)は「疲れたとき、気分転換と脳の活性化に役立つ」。作業療法士の女性(57)は「イライラや悩み事を忘れて集中できるので、ストレスが解消してスッキリする」。異口同音に効果があると話した。

新しいお寺像追求

 佐々木さんは真宗大谷派の寺院の長女に生まれ、跡を継ぐよう言われて育った。既定路線に反発し、愛知県の福祉系大学に進学。卒業後は養護学校の非常勤講師を経て、高校の社会科教師として23年間教壇に立った。

 養護学校時代に、大善院住職の佐々木正祥さん(69)と出会って結婚した。「お寺の敷居を低くして、ゆったりと安心して過ごせる場を提供したい」。そんな願いを抱き、退職後は夫婦二人三脚で、新しいお寺の在り方を求めて奔走した。

 「門信徒だけではなく、お寺と縁のない方々にも足を運んでもらい、幅広く人とのつながりを持てる場を作りたい」。開かれたお寺を目指す正祥さんは2005(平成17)年、駐車場だった隣接地に「おてらハウス」を建設。蔵風の吹き抜け2階建てで、1階はカフェ、2階にギャラリーを設けた。

大善院に併設された「おてらハウス」
大善院に併設された「おてらハウス」

福祉仏教入門講座で開眼

 佐々木さんは10年に臨床美術士の資格を取得した。障害者支援施設の職員として働いていたこともあり、「アートと福祉、仏教のつながりを深め、お寺として何かできることをアピールしたい」と念願したからだ。

 施設などで臨床美術講座を開く一方、お寺が社会にアプローチし、僧侶が社会貢献をする方策を模索。14年から「おてらハウス」の2階ギャラリーを会場に使うようになった。

 そうした中、「葬式仏教から福祉仏教へ」をキャッチフレーズに、社会活動に取り組む僧侶のために開講した「文化時報 福祉仏教入門講座」第1期(21年)を受講。自身の方向性が定まった。大善院の空きスペースを住民に提供し、どんな人にも寄り添う伴走型支援を実現しようと考えた。

 「人に寄り添い、気持ちを受け入れることは、仏教者の大切な視点。そうでなければ教えは伝わらない」

「人に寄り添い、気持ちを受け入れることが大切」と語る佐々木さん
「人に寄り添い、気持ちを受け入れることが大切」と語る佐々木さん

 境内で参加者がコミュニケーションを深めながら非日常を体験し、リフレッシュする。そんなお寺の在り方が理想だと考えている。おてらハウスの「支配人」として、新たな坊守像を実践していく。

【用語解説】臨床美術

 芸術療法(アートセラピー)の一つ。絵やオブジェなどの作品を楽しみながら作ることによって脳を活性化させる。高齢者の介護予防や認知症の予防・症状改善、働く人のストレス緩和、子どもの感性教育などに効果が期待できるとされる。

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