2023年10月11日 | 2024年1月26日更新
※文化時報2023年8月25日号の掲載記事です。
京都市社会福祉協議会の元職員、新山隆司さん(43)が、地域活動の支援や居場所づくりを目的とした株式会社くらしの伴走者を設立した。北野商店街(京都市上京区)の一角に事務所を構え、本棚を貸し出すユニークな図書館を開業。在職中から活動を共にしてきたお寺や教会にも期待しており、「インクルーシブ=用語解説=なまちづくりがしたい」と意気込んでいる。(大橋学修)
新山さんは今年3月に同社協を退職。7月に起業した。高齢者施設や児童相談所でも勤務した経験を生かし、地域交流などを目指す団体や企業にコンサルティングを行う。現在は、各地の社会福祉協議会による地域交流のサポートが主な事業となっている。
一方で、地域の人々が自由に過ごして交流できるよう、事務所を図書館として開放。インクルーシブまちづくり図書館「きたのま」と名付けた。障害者や社会的少数者への偏見をなくし、相互理解を進めたいと考える人が、関係書籍を出展できる。本棚は約30センチ角で区切られており、1区画を月2200円で貸し出すオーナー制を採用している。
ふらっと立ち寄った人が気軽に手に取って読むことで、生きづらさを感じている人たちへの理解を深める仕組み。本棚のオーナーが自分の考えを発表できるミニシンポジウムも定期的に開催する予定だ。新山さんは「インクルーシブな地域づくりに興味がある人たちが、顔なじみになれるような場にしたい」と話す。
新山さんは、京都市社協に勤めていた当時、上京区内のお寺や教会が開く子ども食堂=用語解説=を支え、地域交流活動にも取り組んできただけに、宗教施設が地域の拠点になることに期待している。
だが、インクルーシブまちづくり図書館「きたのま」では、宗教関連の書籍を置くことは認めない。「宗教と政治はトラブルの原因になるし、強引な勧誘を行う宗教団体もある。宗教の本を置くのは『お寺や教会が地域にあってよかった』と思える社会になってから」と注文を付ける。
新山さん自身は、特定の信仰を持たないが、「宗教が心のよりどころとなり、安心できる場となってほしい」との思いを持つ。「私自身、年を重ねると不安になるし、スピリチュアルなことは信じていないけれども、あっていいと思う。多様な価値観を認める社会であってほしい」
お寺や教会と協力すれば、それぞれができる活動に取り組めるので、もっと暮らしやすい社会になると考えている。
「困窮者支援の子ども食堂から趣味のヨガ教室まで、多様な活動に取り組むのはすてきなこと。お寺や教会によって経営事情は異なると思うが、少しでも地域に開いていただければうれしい」。困っているお寺や教会があるなら、積極的に相談を受けるつもりだ。
新山隆司(しんやま・たかし)
1979年11月兵庫県生まれ。関西福祉大学社会福祉学科卒業。介護福祉士、社会福祉士。特別養護老人ホームや老人保健施設、児童相談所での勤務を経て、2009年4月~今年3月に京都市社会福祉協議会の職員として、日常生活自立支援事業や地域団体を連携させる業務に携わった。7月に株式会社くらしの伴走者を設立し、代表取締役社長に就任した。
【用語解説】インクルーシブ
障害の有無や性別などによって人々が孤立しないよう援護し、社会の構成員として包み込むこと。直訳は「全てを包む」「包摂的」で、「ソーシャル・インクルージョン」(社会的包摂)が語源とされる。
【用語解説】子ども食堂
子どもが一人で行ける無料または低額の食堂。困窮家庭やひとり親世帯を支援する活動として始まり、居場所づくりや学習支援、地域コミュニティーを形成する取り組みとしても注目される。認定NPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」の2022年の調査では、全国に少なくとも7363カ所あり、宗教施設も開設している。