2022年9月6日
※文化時報2022年9月2日号の掲載記事です。
真宗大谷派教育部は、僧侶がグリーフ(悲嘆)ケアを学ぶ教材『真宗僧侶とグリーフ』を発刊した。住職資格である「教師」の学習機関などに配布予定で、寺院活動の基礎となる通夜や葬儀など「死別を縁とした仏事」に、若手僧侶が向き合う手掛かりとなることを目指す。
冊子は、「グリーフの基礎」「『自分自身を知ること』と『自身を大切にすること』」「『聴く』と『対話』を学ぶ」「僧侶×グリーフサポート」の4章で、ワークなどを想定して構成。グリーフケア連続講座などを主催する一般社団法人リヴオン(尾角光美代表理事、東京都荒川区)を中心に作成し、大谷派僧侶で臨床宗教師=用語解説=の養成などを手掛ける谷山洋三・東北大学大学院教授が監修した。
第1章では、グリーフを死別による悲しみだけでなく、「人やものなどを失うことにより生じる、その人なりの自然な反応、状態、プロセス」と定義。喪失の種類や失うことによる影響、継続していくことなどを解説した。第2章では、自分自身について知ることを勧め、第3章では具体的な傾聴や共感する対話の方法を説明。体験するための「共感ワーク」についても紹介した。
第4章では、「僧侶のサポートの根本には教えがあり、教えに基づく僧侶の姿勢が相手に伝わっていく」と、僧侶がグリーフケアに関わる意義を説いた。
冊子は、先行して同朋大学、九州大谷短期大学、三条真宗学院、名古屋真宗学院、金沢真宗学院が授業で取り入れる。あくまで日常の仏事への心構えとして対応を学ぶことが目的で、グリーフケア自体を必須科目のように扱うことはしないという。
このため授業への取り入れ方は各機関に委ねられ、まずは3年間冊子を用い、その後は改めて検討する。
担当者は「ワーク中心に学べる内容。悲嘆に寄り添うことで、葬儀の場などを教えと出遇う仏事としてほしい」と話している。
僧侶が関わるグリーフケアの現場は、通夜や葬儀、法事の場がほとんど。僧侶にとっては数多くあるうちの一つでも、遺族にとっては唯一無二の別れの場となる。そして僧侶との一期一会の機会となることも少なくない。
浄土真宗本願寺派が2017(平成29)年にエンディング産業展で実施したアンケートでは、葬儀への不満について、「お布施の額」(13.3%)に次いで回答が多かったのが「僧侶の態度」(12.9%)だった。
悲嘆に寄り添う場を教えと出遇う場とするには、寄り添う僧侶の質が問われる。
監修を担当した谷山洋三・東北大学大学院教授は「グリーフケアは自動車の運転免許証のように、僧侶の基本として学ぶべきことではないか」と、力を込める。宗派側も「法務に臨む前に、学習を心掛けてほしい」と呼び掛ける。
冊子の第4章には「グリーフサポートは教化活動?」と題したコラムが掲載された。善導大師の「自信教人信」を挙げ、「教えに生きる人との出遇いを通して、仏のはたらきに出遇い、教えが伝わる」と記した。
枕経や通夜の法話の充実はもちろん、グリーフサポートの学びを深めることで、「背中で伝える」教化が進むことを願っている。
【用語解説】臨床宗教師(りんしょうしゅうきょうし=宗教全般)
被災者やがん患者らの悲嘆を和らげる宗教者の専門職。布教や勧誘を行わず傾聴を通じて相手の気持ちに寄り添う。2012年に東北大学大学院で養成が始まり、18年に一般社団法人日本臨床宗教師会の認定資格になった。認定者数は21年9月現在で214人。