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不登校、お寺が受け皿 フリースクールを開設

2023年12月11日

※文化時報2023年10月27日号の掲載記事です。

 NPO法人「ただいま」を運営する真宗大谷派正安(しょうあん)寺(茨城県ひたちなか市)が小中学生のフリースクールを開設し、不登校児の居場所づくりを進めている。学校とは異なるワークショップや野外活動を通じて、子どもたちの心が開き、目に見えて変わっていく様子を、増田直住職(45)と共に代表理事を務める坊守の真紀子さん(47)は見てきた。「子育てカフェ」「ただいましょくどう」など、地元を元気にしたいと立ち上げた活動が発展した形で、教育行政とも積極的に連携している。(山根陽一)

 フリースクール「ふらっと」は、ひたちなか市の委託事業として、2021年に正安寺に開設された。月、木、金の週3日開いており、不登校の小中学生17人が通って来る。

(画像‗屋外:フリースクール「ふらっと」の野外活動を楽しむ子どもたち=9月22日)
フリースクール「ふらっと」の野外活動を楽しむ子どもたち=9月22日

 英会話、陶芸、料理、パソコンなどの楽しみ方を専門スタッフが教え、野外では「森のお手入れ」として間伐材の伐採や遊びも行う。月曜日を「大人数が苦手な子ども限定」とするなど、さまざまな特性に配慮しているのが特徴だ。

 お寺はもともと人が集まる場所であり、出入りが頻繁だ。とりわけ正安寺は子育て中の母親や婦人会のメンバーらが訪れる。そうした世代を超えた交流も、子どもたちにとっては刺激になるようだ。

 「不登校児には気持ちの優しい子が多い。自分の不安や悩みで迷惑をかけたくないという気持ちが、口を閉ざしてしまう」と真紀子さんは話す。

 だが、ちょっとした契機でがらりと変わる。「今を楽しんで」と背中を押すと、一言も口をきけなかった子がある日突然話し出すこともあるという。

 文部科学省は、病気や経済的理由を除いて年間30日以上欠席している場合を不登校と定義している。22年に調査したデータでは、全国の小中学生で不登校の子どもは過去最多の約29万9千人に上っている。だが、実際には統計に表れない子どもたちもいるとみられ、真紀子さんは「そんな子どもたちの受け皿に、全国のお寺がなってくれれば」と願いを語る。

きっかけは原発事故

 正安寺の地域活動は15年の「子育てカフェ」からスタートした。

 月に1度、子育て中の母親らが集まり、専門の調理スタッフが作ったランチを取りながら語り合い、情報交換する。毎回約20人が参加するという。

 地元出身で東京の更生保護活動団体の代表を務める岩崎弘治さん(28)は、ボランティアスタッフとして関わっている。「ここはいつも人が多い。ランチもおいしいし、笑顔が絶えない」と話す。

(画像・アイキャッチ兼用_カフェ:「子育てカフェ」は母親たちの交流の場=9月26日)
「子育てカフェ」は母親たちの交流の場=9月26日

 始めたきっかけは、11年の福島第1原発事故だった。正安寺に近い東海村には日本原子力発電の原発があり、多くの住民が不安に陥った。母親たちは自然と寺に集まり、悩みや情報を共有し始めたという。

 「人はスマホでつながっているように感じるけれど、本当に危機が迫ったときは、会って顔を見て打ち明けたくなるのだと思う」と真紀子さんは語る。

いつでも帰れるお寺

 19年には近隣の小学5、6年生を対象にした学童保育を、行政から請け負った。5、6年生の約半数が自宅に帰っても親が不在で、夜も温かいご飯が食べられない子が多くいる―。そんな実態が分かった。

 農家やフードバンクから食料を調達し、非課税世帯やひとり親世帯に配布する支援事業「TeToTe」(てとて)、地域のつながりを充実させる地域食堂「ただいましょくどう」―。そうした取り組みを次々と手がけ、高校生から20代前半の若者が悩みを打ち明け合う「ハイティーンのつどい」なども行うようになった。

 増田住職はこれらの事業を進めるにあたって、ひたちなか市教育委員会と積極的に連携している。「近隣の人々に役立つ活動は、新しいわけではない。社会の変化と共にお寺が昔からやってきたことで、仏法に基づく本来の姿だと思う」と語る。その上で「将来は、高齢者を含めたあらゆる世代が『ただいま』と気軽に帰って来られる場所を目指したい」とビジョンを語った。

(画像_正安寺正面:茨城県ひたちなか市の正安寺)
茨城県ひたちなか市の正安寺
(画像:増田夫妻)
増田夫妻

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