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ビハーラ活動全国集会 講師陣が語った支援の意味

2024年3月9日

※文化時報2024年2月6日号の掲載記事です。

 浄土真宗本願寺派は1月27、28の両日、本山本願寺(京都市下京区)で第18回ビハーラ活動=用語解説=全国集会を開いた。28日には各分野で活躍する僧俗12人を講師に招いて分科会を行った。主な内容は次の通り。(順不同)

死別を意味づける
――龍谷大学短期大学部教授 黒川 雅代子 氏

(画像:黒川雅代子氏)
黒川雅代子氏

 大切な人を亡くした悲嘆は、怒りや後悔、食欲不振などのさまざまな反応をもたらす。これは自然なことで、むしろ悲嘆と付き合っていく方法や、死者との継続する絆を思いながら、自分なりの人生を歩む方法を見つけることが必要だ。

 現代社会は伝統的な仏事が簡略化した。これが、死別体験をした人に出会う機会をなくし、大切な人を亡くした後の生き方のモデルを失うことにつながった。新型コロナはこれを加速させ、多くのあいまいな喪失=用語解説=を生んだ。

 死別は、過去から未来に至る人生の物語を断裂する。しかし、死別が意味づけされることで、故人なき人生の物語が形成される。

 支援者は、悲嘆をなくそうとせず、受容・共感することが大切。誰のニーズなのかを理解し、自分がどのような価値観を持っているのかを知っておくことが求められる。

ビハーラの中の医療
――あそかビハーラ病院医師 坂口 健太郎 氏

(画像:坂口健太郎氏)
坂口健太郎氏

 自宅で看取(みと)られることが一番と考え、理想の死に方を求めてきた。

 30年余りにわたって訪問診療を行った末に、親鸞聖人の教えに出遇(であ)った。死の迎え方の善悪を問題とされず、悲哀に満ちた死を「めでたき往生」として受け止めることに驚いた。

 それまでも死の準備教育が必要だと考えていたが、仏教によって生死を超えるものを得て、死への不安を払拭する必要があると思うようになった。

 スピリチュアルケア=用語解説=は、看護的なノウハウではない。医療から一歩踏み込む必要がある。それを行うのが、臨床宗教師=用語解説=だ。自分の信仰を伝えることは禁止されているとはいえ、死生観をにじませることができなければ、存在意義はない。

 ビハーラ医療は、ビハーラと医療の協力ではない。ビハーラという大きな枠組みの中に医療がある。

精神的自立促す
――こども家庭庁参与・社会福祉士 辻 由起子 氏

(画像:辻由起子氏)
辻由起子氏

 高校在学中に結婚し、19歳で出産した。勘当状態となり、夫の家庭内暴力から23歳でシングルマザーになった。頼る所がなく、何とか子どもを育てるため、佛教大学の通信課程を経て社会福祉士などの資格を取った。

 ひとり親世帯への子育て支援などを行うボランティア団体「シェアリンク茨木」(大阪府茨木市)を2010(平成22)年に立ち上げた。子育てや養育費などの相談、フードパントリー、シェアハウスを中心とした居住支援を行っている。

 「受援力」に着目した取り組みが必要。他者に助けを求め、快くサポートを受け止める力のことだ。

 日本には家父長制度に加え、福祉支援における国や自治体への申請主義が根強く残っている。法が実態にそぐわない場合もある。社会と関係を持ちながら生きていけるよう、精神的自立を促すことから始める必要がある。

社会実践の全て
――龍谷大学文学部教授 鍋島 直樹 氏

(画像:鍋島直樹氏)
鍋島直樹氏

 死は手を合わせる人がいて初めて成立する。つまり、悲しみと愛があふれている。そして心のケアは、その人の人生を丸ごと認めることである。

 病院におけるビハーラ僧=用語解説=の役割は、患者の悲嘆や思いをそっと受け止めること。私が私であって良かった、生まれてきて良かったと思える瞬間を願いながら患者と共に過ごす。

 親鸞聖人の救済観は、全ての者が如来に願われ、摂取(せっしゅ)されて見捨てられることがないという教えだ。必ず救う「大悲」は、人々に安心と生きる力を与える。

 ビハーラ活動では、医療と社会福祉と仏教が協力し合い、苦悩を抱えた人が自分らしい生き方を完遂できるように支援する。仏の願いに温められ、大切な人々に支えられている自己が、人々の悲嘆に心寄せ、心の平安と世界の安寧を目指して努力するのが、仏教者の社会実践の全てだ。

喜び合う日常づくりを
――長岡西病院ビハーラ病棟医師 今井 洋介 氏

(画像:今井洋介氏)
今井洋介氏

 新潟大学の学生時代に東洋医学の研究会を開いた。その後、インドを放浪し、タゴール国際大学(国立ビスバ・バラティ大学)日本語学科の元教授、牧野財士先生から学んだ。

 宗教が人間の真ん中にあることを感じた。旅人として学んできたが、そのままでは分からないことがたくさんあった。タイでは人生の節目に誰でも出家できることを知り、出家した。仏教のある暮らしは日々空気を吸うことと同じだった。

 その後、還俗(げんぞく)して日本で医師の道に戻った。1994(平成6)年にビハーラ活動の提唱者の一人である田宮仁氏らと共に、日本死の臨床研究会の大会に参加した。昨年から長岡西病院で勤務している。

 自己と他者が、互いをよく見て大切に聞くことで喜び合う日常を作ることが、生老病死に寄与できる道ではないか。紆余(うよ)曲折の末、今はそう感じている。

葉っぱで声届ける
――認定NPO法人こまちぷらす理事長 森 祐美子 氏

(画像:森祐美子氏)
森祐美子氏

 こまちぷらすは、子育てが「まちの力」で豊かになる社会を目指して活動している。まちの中で、日常的にお互いがどう知り合い、支え合うかは課題だ。出産や介護など、ライフステージが変わるタイミングで、今までのつながりは閉じていってしまう。

 悩んでいる内容をはっきり理解して、言葉にできなくても気軽に訪れられる場をつくりたいと、カフェを運営している。

 葉っぱ形の紙に、いろいろな人の思いを書いてもらい、それを基に対話する「3枚の葉っぱ」というワークショップは、さまざまな当事者である誰かの声に触れることで、まちの課題を自分事にすることができる。

参加できる人のみが声を反映させられるのがワークショップの欠点だが、葉っぱを通すことで、思いを打ち明けづらい人にも参加してもらえる。多くの声が集まっている。

宗教で関係保つ
――安芸教区広島北組徳行寺住職 三ヶ本 義幸 氏

(画像:三ヶ本義幸氏)
三ヶ本義幸氏

 これまでに地震や水害など多くの災害被災地で、支援活動を行ってきた。

 一度、物資が豊富にある避難所でこちらからの提供を断られた時「何だかつまらないな」と思ってしまったことがあった。ボランティアは本来、進んでやる「志願者」という意味だ。自分が何のために活動しているのかを、考えるきっかけになった。

 東日本大震災の物資支援では、亡くなった夫をしのんで、線香立てを探しにきた高齢女性がいた。生きるための物以外に、心を満たすために必要な物もあるのではないか―。亡くなった人との関係性を宗教を通して保つことや、保つための場の重要性を感じさせられる出来事だった。

 被災地には可能なら足を運ぶべきだが、最終的には自分が今いる所でしっかり生活することが重要。それが、結果として被災地のためになるはずだ。

【用語解説】ビハーラ活動

医療・福祉と協働し、人々の苦悩を和らげる仏教徒の活動。生老病死の苦しみや悲しみに寄り添い、全人的なケアを目指す。仏教ホスピスに代わる用語として提唱されたビハーラを基に、1987(昭和62)年に始まった。ビハーラはサンスクリット語で「僧院」「身心の安らぎ」「休息の場所」などの意味。

【用語解説】あいまいな喪失

米心理学者ポーリン・ボス(Pauline Boss)氏が提唱した理論。はっきりしないまま、解決することも、終結することもない喪失を意味し、「さよならのない別れ」または「別れのないさよなら」と呼ばれる。物理的に存在しないが、心理的に存在している状態と、物理的には存在しているが、心理的には存在していない状態の二つのタイプがあるとされる。

【用語解説】スピリチュアルケア

人生の不条理や死への恐怖など、命にまつわる根源的な苦痛(スピリチュアルペイン)を和らげるケア。傾聴を基本に行う。緩和ケアなどで重視されている。

【用語解説】臨床宗教師(りんしょうしゅうきょうし=宗教全般)

被災者やがん患者らの悲嘆を和らげる宗教者の専門職。布教や勧誘を行わず傾聴を通じて相手の気持ちに寄り添う。2012年に東北大学大学院で養成が始まり、18年に一般社団法人日本臨床宗教師会の認定資格になった。認定者数は23年5月現在で212人。

【用語解説】ビハーラ僧(浄土真宗本願寺派など)

がん患者らの悲嘆を和らげる僧侶の専門職。布教や勧誘を行わず、傾聴を通じて相手の気持ちに寄り添う。チャプレンや臨床宗教師などと役割は同じ。浄土真宗本願寺派は2017年度と19年度に「ビハーラ僧養成研修会(仮称)」を試行。計10人が修了した。

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