2024年5月17日
※文化時報2024年4月2日号の掲載記事です。
真言宗御室派総本山仁和寺(瀬川大秀門跡、京都市右京区)で3月16日、病気や障害のある人と家族を対象にした「お寺へおでかけプロジェクト」が行われた。2022年に次ぐ2回目で、約40人の募集に対し、300人の応募があったという人気ぶり。「だれもが同じ時間を、同じ場所で過ごす」ことをコンセプトに、世界文化遺産での一日を堪能した。(春尾悦子)
『ママと呼べない君と 自閉症の息子「えぬくん」との、もうアカン!けどしあわせな日常』(KADOKAWA)の著者で、動画投稿サイトでも多くのファンがいる「えぬくんママ」と「えぬくん」をゲストに、仁和寺御殿でトークイベントを実施。同じ悩みをもつお母さんたちから絶大な支持・共感を集めるだけに、会場からは次々と質問が飛び出し、サイン会も行われた。
「えぬくんママ」は、自分の母親に頼りっぱなしなことに気が引けていたとき「頼れるもんは、頼ったらいい」と言われて、はっとしたと話した。周囲の人々や福祉制度など、誰かに頼ることで苦労せずに済むなら頼ろうと考えるようになったという。将来の夢について会場から尋ねられると、自閉症のある息子の特性を踏まえて「えぬと、音のしない大きな家に住みたい。私とえぬだからこその夢。遠い夢なので、何歳になってもいい」と語った。また「飛行機に乗りたい。沖縄に行きたい。みんなで乗っていこうね」と呼び掛けた。
主催者の「東京おでかけプロジェクト」代表・中嶋弓子さんは16(平成28)年から、日本財団で「難病の子どもとその家族を支えるプログラム」を担当。企業や行政と連携しながら、難病の子どもと家族のためのモデル拠点を30カ所に整備し、延べ300団体の運営支援を行ってきた。現在は同プロジェクトで病気や障害のある子どもや大人、家族たちが気軽に行ける拠点づくりを進めている。
中嶋さんは「当事者には心のハードルがある。行ける場所ではなく、行きたい場所に行くお手伝いをしたい」と話した。
取り外し式のスロープを特注するなど、受け入れ態勢を整えてきた御室派の金崎義真管財課長は「一般的なお寺は元気な人しか来られないし、説明は聞こえる人しか聞けない。スタッフの協力を得ながら、誰もが拝観できる環境をつくる必要がある」と意欲を示した。