2024年7月12日
※文化時報2024年5月17日号の掲載記事です。
高齢者住宅を関西圏で複数展開する介護事業会社opsol(オプソル、三重県伊勢市)は、カトリック修道女(シスター)で上智大学グリーフケア研究所名誉所長の髙木慶子(たかきよしこ)氏(87)を招いて講演会を行った。自社の研修にとどまらず、広く介護現場で働く人々にグリーフ(悲嘆)ケアについて知ってもらおうと、無料で公開。123人が参加した。
講演会は「寄り添い人の苦難を理解するために~介護にあたる人々の悲嘆を理解しましょう」と題し、4月11日に大阪市中央公会堂で行った。
髙木氏は、東日本大震災で母親が目の前で津波にのまれた当時中学生の青年など、自身が携わってきたグリーフケアの事例を紹介。北海道の知床半島沖で観光船が沈没した事故の行方不明者家族には「希望を持とう。もし希望がついえたとしても、頑張れるだけの力を蓄えておこう」という態度で接していると語った。
続けて、悲嘆は一般的に「家族など親しい人との死別体験」と考えられているが、広義の悲嘆はペットロスや仕事・試験の失敗など日常的な喪失体験からくると指摘。犯罪加害者の家族になることや不倫相手との別れといった「公認されない悲嘆」もあると説明した。
また「悲嘆は人間にとってごく自然な感情で病気ではないが、それが引き金となって病気になることもある」と語り、適切にケアすることの重要性を強調。「人に言えないまま、心に深い悲嘆を抱えている人は大勢いる。そうした人が目の前にいるかもしれないと考え、どんな人にも思いやりを持って接することが大切」と訴えた。
一方で、失敗しがちな例として「安易な声がけ」を挙げ、「無理に言葉をかけようとするから、相手が傷つく言葉を使ってしまう。十分な関係性が築けていない場合は、何も言わない方がいい」と呼び掛けた。
質疑応答では、介護事業所で勤務する人から「終末期の利用者にどこまで現実のことを言うべきか」「身寄りのない利用者が亡くなった後に『あれで良かったのか』と迷いが生じる」との声が上がった。
髙木氏は前者について「私は『向こうで待っていて』と伝えるようにしている。ケアする側の死生観が問われる」と回答。後者に対しては「自分たちの行為が良かったかどうか気にするのは、傲慢(ごうまん)ともいえる。大事なのは『精いっぱいやったこと』という事実であり、あとは大いなるものにお任せすればいい」と伝えた。
講演会を主催したopsolは、終末期や継続的に看護が必要な利用者とその家族に対し、全人的な苦痛・苦悩を緩和する「パリアティブケア」の提供を目指している。
高齢者住宅は「パリアティブケアホーム」、訪問介護員は「パリアティブケアヘルパー」、訪問看護師には「パリアティブケアナース」などと名称を付け、そうした姿勢を明確に打ち出している。
同社は、パリアティブケアを実現する上でグリーフケアについて考えることを避けて通れないとみており、スタッフ教育に尽力。週1回、上智大学グリーフケア研究所の研究所職員を招いて講座を開催している。
今回は髙木慶子氏の講演を初めて開催するに当たり、「介護・医療・福祉の現場で働く人が、少しでも元気になったり、前を向くきっかけになったりすれば」という鈴木征浩社長の思いから、無料公開に踏み切った。
鈴木社長は「ケアの現場には、日々悲嘆があふれている。本人や家族が苦しむ姿に、スタッフ自身が悲嘆を感じることもある」と指摘。「真にケアを提供し続けていくには、ケアを行う者自身が健康と平穏な心を保つことが重要だ」と話している。