検索ページへ 検索ページへ
メニュー
メニュー
TOP > 福祉仏教ピックアップ > 『文化時報』掲載記事 > 〈文化時報社説〉認知症が普通になる

つながる

福祉仏教ピックアップ

〈文化時報社説〉認知症が普通になる

2024年7月18日

※文化時報2024年5月24日号の掲載記事です。

 2021年に公開された映画『お終活 熟春!人生、百年時代の過ごし方』(香月秀之監督)は、熟年離婚寸前の夫婦が終活をきっかけに引き起こすさまざまな騒動を、ユーモアたっぷりに描いたコメディーだ。笑いと涙の間に考えさせられるエピソードが随所にちりばめられているのだが、橋爪功演じる夫が終活に関心を示すきっかけとなった心理描写は興味深い。

文化時報社設
文化時報社設

 それまで、夫は自分の人生を振り返ることに興味がなく、高畑淳子演じる妻が終活に前のめりになっていく姿を冷めた目で眺めていた。それが、元同僚が認知症になったと知り、当たり前に存在しているはずの記憶や思い出は認知症になるとどうなるのか―という素朴な疑問が頭をもたげた。

 映画はここから認知症に対する偏見や忌避に陥ることなく、夫の心情の変化をうまく描いているのだが、銀幕の世界ではなく現実を生きる私たちはどうか。昨年6月に制定され、今年1月に施行された認知症基本法がうたう「共生社会」を実現させねばなるまい。

 朝日新聞9日付朝刊1面(大阪本社発行版)に「認知症 2040年に584万人 『前段階』含めると3人に1人 65歳以上」という見出しが躍った。厚生労働省研究班が8日に発表した推計について報じた記事だ。2040年は、団塊ジュニア世代が65歳以上になる年である。

 認知症の「前段階」は軽度認知障害と呼ばれ、物忘れなどの症状はあるものの生活に支障がない状態を指す。2040年には612万人に上り、認知症と合わせて1196万人、2060年には65歳以上のおよそ3人に1人に認知機能の低下がみられる計算になるという。

 ここまでくると、認知症はもはや普通だ。よわいを重ねれば老い、老いれば忘れやすくなる。そうした自然の摂理から、社会全体が目を背けず、受け止める必要があるのだろう。生老病死を苦と捉える仏教をはじめ、死や老いと日々向き合う宗教者の出番である。

 アルツハイマー病の新薬「レカネマブ」が昨年9月に薬事承認されたことにより、認知症を病気と見て治療することへの期待が高まっているが、治療だけが解決策ではない。まず私たちが認知症をよく知り、偏見を取り除くことを最優先としたい。合わせて、当事者と家族が孤立することのないよう、認知症カフェや介護者カフェ=用語解説=などの活動を広げたい。

 介護を巡っては近年、大人の代わりに家族の世話をする「ヤングケアラー」、障害のある子を含む子育てと親の介護が重なる「ダブルケア」、仕事を続けながら介護を両立させる「ビジネスケアラー」など、多様な形態が注目されている。当事者の経験から学ぶ機会も必要である。

 認知症や介護に関する語り合いや学び合いの場として、お寺や教会がふさわしいことを強調しておきたい。

 さて『お終活』は死生観に関する話題もタブー視せず扱った。5月31日には第2弾『お終活 再春!人生ラプソディ』が公開され、認知症についても取り上げているという。宗教者も注目してほしい映画である。

【用語解説】介護者カフェ

 在宅介護の介護者(ケアラー)らが集まり、悩みや疑問を自由に語り合うことで、分かち合いや情報交換をする場。「ケアラーズカフェ」とも呼ばれる。主にNPO法人や自治体などが行っているが、浄土宗もお寺での開催に取り組んでいる。孤立を防ぐ活動として注目される。

おすすめ記事

error: コンテンツは保護されています