2024年11月18日
※文化時報2024年9月17日号の掲載記事です。
大阪市天王寺区の浄土宗西照寺(正木唯真住職)を拠点に活動する学生たちが設立した一般社団法人がある。日本寺子屋協会(大阪市北区)だ。活動を西照寺以外にも広げ、卒業後にも関われるようにしようと、大阪教育大学4年で会長の堀内菜々美さん(22)らが設立した。「まちの学び舎(や)」をプロデュースし、子どもたちを育む地域活動と学校教育を連携させる。(大橋学修)
堀内さんらは法人発足以降、浄土宗大蓮寺(秋田光軌住職)を創立の母体とするパドマ幼稚園(大阪市天王寺区)でワークショップを手伝ったり、京都市内で預かり保育を行ったりし、子どもの自然体験を行う団体などとも連携している。
今月7日には、中高一貫の私立自修館中等教育学校(神奈川県伊勢原市)が商業施設で行った教育プログラムに参画。「社会に働きかける」をテーマに、5年生(高校2年生)が持続可能な開発目標=用語解説=の目標14「海の豊かさを守ろう」を学ぶキーホルダーづくりやフェアトレード=用語解説=を知るミサンガづくりなどの体験コーナーを設け、運営できるようにサポートした。
地域で子どもの学びに取り組む団体だけでなく、学校教育との連携を目指しているのが特長。学校での教育が地域での学びに生かされ、それが学校に還元されていく仕組みづくりを進める。堀内さんは「まちの大人や校外の環境を生かした学びができるようにしたい」と話す。
堀内さんは2021年6月、西照寺が開く介護者カフェ=用語解説=に大学の先輩が参加し「お寺を自由に使ってもいいらしい」と聞いてきたことで、正木住職に会いに行った。学校では学べないことを子どもたちに伝える活動をしたいと考えており、場所を探していたからだ。
正木住職に快諾してもらったことで、学生団体「寺子屋Teller(テラー)」を立ち上げ、同年10月から毎月子ども向けのワークショップを開催。「知る」と「つくる」をテーマに、ジャンボ漢字かるたづくりや洋服のリメイクなどを行ってきた。
また、経済産業省の「『未来の教室』実証事業」の採択を受けた企業に協力し、学習プログラムの作成を担当。海洋プラスチックごみの問題をテーマに、学校では科目に応じた学習を、校外では漁業関係者の協力で底引き網の体験などを行った。
西照寺での活動や経産省事業での取り組みに手ごたえを感じた堀内さんは、活動を全国展開することを着想。一般社団法人日本寺子屋協会を今年1月に設立した。寺子屋Tellerは西照寺を拠点として活動する団体として後輩に託し、日本寺子屋協会の連携パートナーという位置づけにした。
設立構想がまとまった段階で理事への就任を求められたという正木住職は「20代のすごさを感じる。お寺を拠点とした活動だけでも、子どもたちに加えて保護者同士が交流するワークショップまで行いだし、職業体験まで企画している」と目を丸くする。
堀内さんは「法人格があると、国の助成を受けやすい。これからは『まちの学び舎』を担う人材育成にも取り組みたい。そうすれば、人の集まる場としてお寺も生きてくる」と話した。
【用語解説】持続可能な開発目標(SDGs)
2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標。15年に国連本部で開かれた「国連持続可能な開発サミット」で採択された。17の目標と169の達成基準からなり、誰一人取り残さないことを目指している。
【用語解説】フェアトレード
発展途上国の農産物や日用品などを、適正な価格で継続的に購入する仕組み。立場の弱い生産者の労働条件や生活水準を改善して経済的な自立を促すとともに、環境保護にもつなげる。「公平(公正)な貿易」と訳される。
【用語解説】介護者カフェ
在宅介護の介護者(ケアラー)らが集まり、悩みや疑問を自由に語り合うことで、分かち合いや情報交換をする場。「ケアラーズカフェ」とも呼ばれる。主にNPO法人や自治体などが行っているが、浄土宗もお寺での開催に取り組んでいる。孤立を防ぐ活動として注目される。