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〈9〉老人ホーム内で6割葬儀 「鶴の苑」

2024年10月10日

※文化時報2024年5月14日号の掲載記事です。

 高齢者施設では、施設主催のお別れ会を行う所は多いが、遺族施行の葬儀は介護保険対象外のため、施設内で行っている所は限られる。社会福祉法人合掌苑が運営する介護付き有料老人ホーム「鶴の苑(さと)」(東京都町田市、定員92人)では、年間20人前後を数える亡くなった利用者のうち、約6割がホームで葬儀を行っている。家族の中には、参列する鶴の苑のスタッフの姿を見て、涙する人も多いという。

スタッフに見送ってほしい

 鶴の苑が葬儀を行うようになったきっかけは、こうだ。

 敷地内には、社内会議などに使われ地域住民も利用できる「コミュニティ棟」(50人収容可能)がある。ホームの入居者が「ここで葬儀はできないだろうか」と言いだし、創業者で僧侶の故・市原秀翁師が「ぜひやろう」と快諾してスタートしたのだという。今から18年前のことだ。

(画像①:葬儀を行うコミュニティ棟(手前建物)の外観)
葬儀を行うコミュニティ棟(手前建物)の外観

 青松真由美統括マネジャーは「ご縁を頂いたことに感謝し、最期の時まで私たちがお世話させていただくのが、合掌苑の方針」と語る。

 だからといって、葬儀まで行うことをホームの特徴の一つとしてPRしているわけではない。家族の思いに寄り添うことを基本にしており、ホーム側から「葬儀はどうしますか」と尋ねることはないという。家族から相談があったときに、初めて説明しているのだ。

 亡くなった利用者のうち、コミュニティ棟で葬儀をする家族は、多い時には8割に上った。近年は、入居する年齢が高くなり入居期間が短くなったことなどから、6割程度になっている。

 6割でも他の高齢者施設に比べると非常に高い。その要因として青松統括マネジャーは、①高年齢化で社会的なつながりが減り、身内だけの家族葬を行うケースが多くなった②葬儀をするなら、ここ数年一緒に過ごした施設のスタッフに見送ってほしい③葬儀ができる場所があり、葬儀社のあてがなければ鶴の苑から紹介できる―ことを挙げる。導師も葬儀社が手配してくれるという。

(画像2:ある入居者の葬儀の花祭壇)
ある入居者の葬儀の花祭壇

 実際にホームから葬儀社の紹介を受ける人は9割と多く、「葬儀社が決まっている人は、その葬儀社の会館で行う」という。

感謝を伝えるために参列

 葬儀の内容については家族と葬儀社が決め、ホーム側は立ち入らない。

 最近の儀式形式は、2日葬21%、1日葬70%、直葬9%で、東京の他の葬儀社と比べると直葬が少ない。宗教形式では、宗教葬86%、無宗教葬14%とのことだが、僧侶が創業したホームだから宗教葬の割合が高い、という背景ではない。「無宗教葬だと、何を行うか考えなければならず、家族の負担が大きいから」なのだそうだ。

 葬儀には、責任者や担当スタッフなど5~6人が参列するほか、その他のスタッフ15~20人が読経の時に焼香に訪れる。ホームは葬儀の際に、故人のスナップ写真をコルクボードに複数枚張って会場に飾り、葬儀終了後にアルバムにして家族に渡している。

 鶴の苑がこのようなことを行っているのは、「ご縁による出会いと鶴の苑で過ごしていただいたことへの感謝にほかならない」という。

(画像3アイキャッチ兼用:出棺の様子)
出棺の様子

 青松統括マネジャーはこう語る。

 「ご家族は参列・焼香するスタッフの姿から故人に思いをはせ『鶴の苑を選んでよかった』と安心されると聞いたことがある。また、ホームで親しくされていた方の葬儀に参列し『自分も鶴の苑の皆さんに送ってもらいたい』と希望される方もいる」

塚本の目:葬儀以外にも配慮・工夫

 合掌苑では、葬儀以外にも供養として行っていることがいろいろとある。

 例えば、高齢者施設では亡くなると居室から1日程度で退居してもらったり、安置場所に移動してもらったりすることが少なくない中、葬儀・出棺するまでは遺体が傷まないよう対応し、居室に安置することを基本にしている。

(画像4:ご遺体を安置する入居者用居室)
ご遺体を安置する入居者用居室

 鶴の苑エリアの火葬場の待ち日数は、現在1週間と長いが、「夏場は、ご遺体が傷むので葬儀社さんの冷蔵庫に安置するが、冬場は居室で安置を続けることが多い」とのこと。居室に安置されていると、その間に多くのスタッフが部屋を訪れて合掌しているという。

 また、合掌苑では、春・秋の彼岸と盆の年3回、森一成理事長が鶴の苑はじめ3拠点を回り、法要を執り行っている。3拠点それぞれで看取(みと)った人たちの名前を読み上げ、お経を上げて供養している。森理事長は僧侶ではないが、僧侶である創業者に長きにわたり師事してきた。

 筆者は、合掌苑は多くの供養業者よりよほど供養を大切にしており、学ぶべきことは多いと思っている。

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