2022年10月8日
「鉄火巻、買うてきといて」
訪問介護を利用している70代の男性は、一人暮らし。いつもの男性介護士から「お昼ご飯、どうする?」と尋ねられ、いつもと同じように答えました。
身寄りなし。離婚して、子どもとは絶縁。好き勝手に、気ままに生きてきました。食生活もめちゃくちゃで、食べるものといえば鉄火巻のみ。お酒はドクターストップがかかっていますが、やめられるはずもなく、ネット通販でひそかに焼酎を取り寄せていました。
「飲んだらあかんで」「分かってる分かってる。ちょっとしか飲んでへん」。こんなやりとりが、日常茶飯事でした。
せめて食事のバランスだけでも何とかならないか。介護士はそう考えて、煮物を作るようにしました。野菜を取れるし、日持ちして食あたりしにくいし、それにお酒のつまみとして、食べてもらいやすそうだったからです。
「煮物、作っといたからな」。帰り際に声を掛けて、次に行くと箸を付けずに置きっぱなし。そんなことが繰り返されました。「ま、いっか」と、深く悩まず1カ月は作り続けたでしょうか。ある日、小腹でもすいたのか、何かの拍子に食べてくれました。
「おいしかったわ」
男性は、料理ができるのは女性だけだと思い込んでいたと明かしつつ、その介護士が作ってくれるのなら、何でも食べるとまで言いました。理由を尋ねると、
「話を聞いてくれるし、無理強いせえへんやんか。自分を分かってくれようとするのが伝わってきて、うれしかったんや」
それから介護士は、さまざまな料理を作りました。ピーマンやニンジンといった嫌いな野菜も、細かく刻んでロールキャベツのタネに混ぜ、たっぷり召し上がっていただいて…。「子どもに食べさせるのと、同じ要領でした」とのことでした。