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「文化時報」コラム

⑥追い出された僧侶

2022年9月30日

 ショッキングなことがありました。

 慢性期病院の関係者が集まっているある協会の理事会に招かれ、スピリチュアルケアの必要性についてプレゼンテーションをさせていただいた時のことです。

傾聴ーいのちの叫び

 理事の皆さまは慢性期疾患のある患者と向き合っておられる医師です。普段はあまりスピリチュアルケアを意識されることは少ないでしょうが、皆さま熱心に耳を傾けてくださり、やはりスピリチュアルケアは必要だと、口々におっしゃってくださいました。 

 そんな雰囲気の中、一人の医師が手を挙げてこうおっしゃいました。「私は、スピリチュアルケアというものを、周りから遠ざけています」 

 その医師は「懲りたことがあるからです」と言って、理由を説明してくださいました。 

 以前、ある僧侶がその医師のところにやってきて、「緩和ケア病棟でスピリチュアルケアをさせてもらいたい」と言いました。医師はとてもありがたい話だと思って、ぜひにとお願いし、定期的に入院中の患者を訪問してもらうようにしました。

 ところが、数カ月たった頃、患者からおかしな話を聞いたのだそうです。「お葬式の注文を取られた」と。慌てて確認すると、その僧侶は医師にも、「亡くなる患者さんの葬儀を任せていただけないか」と言ったというのです。 

 「もちろん、私は即、追い出しました。その僧侶にとって、余命3カ月の方が入院している緩和ケア病棟は猟場だったのでしょう。だから、玉置さんの話は分かりますが、私は、残念ながら…」 

 私はお聞きしながら、全身の力が抜けて体が地面にめり込んでいくのを感じました。 

 さまざまなご事情がおありでしょうから、一方の言い分だけをお聞きして物は申しません。ただ、スピリチュアルケアが医療の現場で認められるのは、自分が思っていたよりもずっと厳しいいばらの道なのだと、覚悟を新たにした次第です。 

 幸い、その後の話し合いでなんとかご理解をいただき、慢性期に関わる介護従事者にスピリチュアルケアをお伝えする試みを始めることを、満場一致で認めていただきました。

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