2022年10月20日
今年で10年目を迎えた埼玉県所沢市のハッピーホームデイサービス。閑静な住宅街の一軒家にあり、いつも利用者とスタッフの笑い声が聞こえてくる。
代表の平井貴明さんは東京都出身。小学校に上がる前まで祖父母と同居し、別々に暮らすようになってからも毎週家を訪れた。特に祖母とは、高校生になってからも一緒に散歩するなど、平井さんにとって共に過ごした時間が大切な思い出になっている。
その後、認知症を患った祖母が病院で受けた対応に疑念を抱き、経営コンサルタントやクリニックの事務局長などを経て、40歳で独立。自らデイサービスを設立し、2年前には介護専門員として居宅介護支援事業所も立ち上げた。
ハッピーホームデイサービスは、小規模通所介護施設。毎日定員10人を受け入れている。中には看取(みと)りまで行うこともある。
平井さんが特に印象に残っているのは、デイサービス設立当初から通っていた90代のAさん。80代まで保険の仕事を続け、車も運転していたが、アルツハイマー型認知症を発症した。
徐々に体も衰え、デイサービスにいる間に何度も意識を失って、歩くこともままならなくなった。「訪問看護師からは『意識がなくなっても救急車を呼ばなくていい』と言われました。担当医も『病院に運んでもこれ以上できることはない』と。なすすべがないので、われわれが対応していました」
送迎時には抱きかかえて車に乗せ、食事もできない。「死」を予感させる日々に、職員たちは不安を覚えるようになった。「これ以上は支援をお断りしたい」。そう伝えてくる職員もいた。
「でも、Aさんは元気な頃、『最期まで通いたい』と話していた。そこで、どうしたら最期まで安心・安全に過ごすことができるのかを、みんなで考えましたね」
ある日のこと。Aさんは帰る間際に「みんなありがとうね」と感謝の言葉を伝え、その場にいた利用者とスタッフに握手をして別れた。穏やかな表情だった。その2日後、Aさんは静かに息を引き取った。
「亡くなられる2日前は、いつもと違って食事をたくさん食べられたので、驚きました。ご自分でも、今日で最期かもしれないと感じていたのかもしれない」と、平井さんは振り返る。職員たちも、最期まで一緒に頑張って良かったと口をそろえた。
生前、Aさんの支援を断ることはできた。だが、平井さんはすぐに「無理だ」と言うことはなかった。
「どうしたら最期まで支援ができるのか。それを考えることが、介護の良さを知る第一歩だと感じます。職員たちもAさんを通して勉強させてもらい、意識が変わったと思います」
それからも何人かの利用者を看取る場面に遭遇したが、その都度職員同士で落ち着いて連携を取り合い、数々の出来事を乗り越えてきた。
小規模通所介護施設だからこそ、利用者と職員が家族のような関係性を築き、良い時も悪い時も共に歩み寄る。そこが魅力だと、平井さんは考えている。