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インタビュー

橋渡しインタビュー

たか&ゆうき「icotto」テーマソング制作へ

2023年1月2日 | 2024年10月2日更新

 「All Love Sings~ALSになっても歌いたい」で2022年9月に初のコンサートを開催した音楽ユニット、たか&ゆうき。筋萎縮性側索硬化症(ALS)=用語解説=患者の「たか」こと古内孝行さん(42)と、介護福祉士の「ゆうき」こと石川祐輝さん(40)の2人が織りなす歌の世界観は、観客を圧倒した。コンサート後には、会員制交流サイト(SNS)でつながるオンラインALS(神経難病)座談会でテーマソング制作を依頼された。難病患者らの交流を支える民間団体「icotto(イコット)」も2人のテーマソング作りに参加予定だ。難病患者の声を拾い、大勢の人たちに届けるため、新たな音楽活動に踏み出している。

残したい声を拾っていく

 オンラインALS(神経難病)座談会は2年前、古内さんがALSを発症し自宅でふさぎ込んでいた際に、妻がフェイスブックで見つけて勧めてくれた。同じような状況に置かれた患者同士の意見交換に励まされながら、定期的に参加するようになった。

 一方の「icotto」は、難病の啓発と生活の質の向上を目指し、難病患者のコミュニケーションをつなぐ民間団体だ。治療法のない病気と向き合う人たちは、1人で気軽に外出できず、孤立しがちなケースが多い。できるだけ社会と交流が持てるよう、患者だけではなく家族や医療者、介護者、セラピストらも自由に参加でき、定期的な交流会を行っている。

たか&ゆうき。2023年も音楽活動に力を注ぐ
たか&ゆうき。2023年も音楽活動に力を注ぐ

 そこで白羽の矢を立てたのが、たか&ゆうきだった。2人の歌う様子やコンサートでの活躍が収められた動画投稿サイト「ユーチューブ」は、二つの会の当事者や関係者に大きな影響を与えた。コンサートが終了し一息ついたところで、団体のテーマソング作りを依頼した。テーマは「限りある時の中で」という。

 誰しも生活する上で喜びや悲しみ、困難に直面することはある。今の自分ができることを、次の世代につなげていこう—。そんな思いで、2人は新しい曲を考えはじめた。

 古内さんがデイサービス琴平(埼玉県所沢市)を利用する日の夕方、石川さんの仕事が終わると同時にたか&ゆうきの曲作りが始まる。

 曲がある程度できてきたら、難病を患う人たちの声を募集し、歌詞に織り込む予定だ。患者自身が残したいと思う言葉を、丁寧に拾い集めて歌詞にしたいと、2人は意欲を見せている。

「幸いにも僕は好きな音楽を続けられ、曲を作れる環境にあるので、以前からもっと当事者の声や思いを曲作りに反映させたいと思っていました。僕にとってもテーマソングの依頼はタイミングが良かったです」と、古内さんはうれしそうに語る。

2人で一から作る曲

 コンサートで歌った曲では、2人がそれぞれに歌詞やメロディーを作っていたが、今回は一から一緒に音作りをする。古内さんが事前に鼻歌でメロディーをスマホに録音。石川さんが古内さんのメロディーを聞きながらギターを弾き、歌詞を「ラララ」で歌ってイメージを徐々に形にしていく。

石川さんが録音した音を聞き、どこまで曲が進んだのか確認する
石川さんが録音した音を聞き、どこまで曲が進んだのか確認する

 自分の好きなアーティストの音楽から、イメージに合う雰囲気を見つけ出すことが制作のポイントなのだとか。石川さんは「好きな洋楽やBGMなどをヒントに、リズムを考案して曲のイメージを膨らませると作りやすいです」と楽しそうにリズムを取っていた。

 「石川さんが勧めてくれた曲を聴くのも、新しい発見になってインスピレーションにつながります。お互いに知っている曲を教え合うのもいいですね」と話す古内さん。尊敬するミュージシャンは、イングランド出身のSTING(スティング)だ。

 「ここの入りに音が欲しいよね」「Bメロからサビは問題ないね」と、3拍子のバラードで構成されるテーマソングが、2人の阿吽(あうん)の呼吸で練り上げられていく。

 一般的なユニットだと、お互いに譲れない部分が出てきた時にけんかになることも多いが、2人は淡々と意見を取り入れる。ギターで奏でるメロディーに合うコードを、2人で真剣に選ぶ様子はとても穏やかだ。力を入れずざっくりイメージをつくり、難航するとスパッとこだわりを捨ててメロディーを作り直すことが、曲作りを成功させるこつだと2人は話す。

2023年も歌を直接聴いてもらえる環境をつくりたいと話した
2023年も歌を直接聴いてもらえる環境をつくりたいと話した

 古内さんがデイサービスに入浴で通所する日は、週に2回。取材当日の日中も、石川さんが古内さんの入浴介助に入りながら、今後制作予定のミュージックビデオについて話し合っていたそうだ。2人は着実に、自分たちにしかできないことを計画している。

ALS患者の相談にのることも

 古内さんは音楽活動以外で月に1度、同じ市内のALS患者と家族の会に参加している。最近では、ALSを発症したばかりの患者からの相談にアドバイスをすることもあるそうだ。

 ALSは進行性の病気だが、人それぞれに症状の出る部位が異なる。症状が進むにつれて、古内さんの場合は足の筋力が低下し歩行が困難になった。

家族と過ごす日々を大切にする古内さん
家族と過ごす日々を大切にする古内さん

 過去に転倒して動けなくなり、自宅の床に倒れたまま1人で数時間過ごした経験も、今では他の患者に話して予防法を伝えることができる。助けを呼びたくても呼べない状況をつくらないために、最近では人工知能(AI)を使った音声認識機能「アレクサ」や「Siri」を使うように勧めているという。スマートフォンだけだと、自分の手元にない時もあるため、日頃からこうしたツールを使いこなすことで、いざというときでも家族に自分の状況を知らせられるという。
 
 「僕たちの病気は、宝くじに当たったようなレベル。でも、何か目標を持って暮らせる人は、たとえ病気や障害が重くなっても、楽しく生きられているように感じます」と古内さんは語る。これからもALS患者として治療に向き合い、自分にできることを探しながら、明日につなげたいと考えている。

 

 「福祉仏教 for believe」では、今後も「たか&ゆうき」の音楽活動を追って紹介していきます。ご期待ください。

【用語解説】筋萎縮性側索硬化症(ALS)

 全身の筋肉が衰える病気。神経だけが障害を受け、体が徐々に動かなくなる一方、感覚や視力・聴力などは保たれる。公益財団法人難病医学研究財団が運営する難病情報センターによると、年間の新規患者数は人口10万人当たり約1~2.5人。進行を遅らせる薬はあるが、治療法は見つかっていない。

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