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インタビュー

橋渡しインタビュー

ビハーラで医療・福祉職と協働 清史彦住職

2024年1月4日

※文化時報2023年12月1日号の掲載記事です。

 医療・福祉職と宗教者との協働が叫ばれるようになってから、ずいぶんたつ。そうした中、仏教を基本に社会福祉事業を展開するNPO法人ビハーラ21(大阪市平野区)は今年、創立20周年を迎えた。創立メンバーの清史彦・真宗大谷派瑞興寺(同区)住職(71)は、同法人が売上高3億円を超えるまで発展した理由の一つに「仏教思想を体現する理念の中心に、僧侶がいる」と分析。僧侶の役割はこれまでの「葬式仏教」にとどまらず、ビハーラ活動=用語解説=などの社会活動に及ぶと説く。(高田京介)

坊主バーとの「合致」

 《京都大学を卒業後、大手商社に入社し、寺の長女と駆け落ちした。東京を拠点に海外出張をこなすなど順調な会社員生活を送っていたが、お互いの実家の状況を鑑みて僧籍を取得。妻の実家の瑞興寺に入寺した。僧侶となったからには、社会経験を十分に生かしたいと考えた》

ビハーラ21恒例の花見大会
ビハーラ21恒例の花見大会

――ビハーラ21やお酒を飲みながら僧侶に人生相談できる「坊主バー」など、さまざまな取り組みを行ってきました。

 「境内で軽食を食べながら、門徒だけでなく誰でも語り合える『ひらの聞思洞』を開く中で、参加者から『日常的に話を聞いてもらいたい』と求められたのがきっかけだった」

 「〝言い出しっぺ〟の参加者をバーテンダーに、1992(平成4)年に大阪・ミナミに坊主バーを開業。現在は京都と東京の2店舗だが、同じような雰囲気の事業が増えている」

――ビハーラに着目したきっかけは。

 「85(昭和60)年に淀川キリスト教病院(大阪市東淀川区)の医師を講師に招いた大阪教区仏教青年会の講演がきっかけ。当時は、終末期の緩和医療を指すホスピスが広がり出したころだった。さらに恩人がこの病院に入院した。可能性を感じていたが、何をするのか最初はよく分かっていなかった」

 「99(平成11)年のハワイ研修旅行で、病院に勤めるチャプレン=用語解説=に出会った。ちょうどそのころ、仏教ホスピスに代わる概念であるビハーラを知った。役割は終末期だけでないことを理解し、坊主バーにいるのは『バー・チャプレン』だったのだと、取り組みと理念が合致した」

学習会から福祉事業へ

 《NPO法人ビハーラ21は2003年4月、ビハーラ活動を学ぶ超宗派の任意団体として発足。真宗大谷派、真宗高田派、浄土真宗本願寺派、浄土宗、融通念仏宗、曹洞宗の僧侶のほか、神道や医療コンサルらも参加し、第1回の学習会が大谷派の真宗寺(堺市堺区)で開催された》

――学習会からどのように事業へ発展したのですか。

 「最初は概念の理解から深めていったが、会のメンバーが持っていた学生マンションを高齢者向けのシェアハウスに変え、介護事業を始めた。仏教者が常駐し、遺体安置や通夜・葬儀ができる環境も整えた」

 「最初は入居者から『縁起が悪い』との声が上がったが、『同じように弔ってほしい』と、現行の公的制度の範囲外をカバーした点が評判を呼び、順調だった。運営を巡って貸し主と対立し、シェアハウスから撤退して現在の大阪市平野区にある事業所をオープン。これがなかったら、今の発展はなかったかもしれない」

清住職の法話を聞く利用者ら
清住職の法話を聞く利用者ら

 《現在NPOは、ビハーラを理念に置いた障害者・高齢者向けの住宅8棟68室を含む九つの事業所を構える。宗教者を含む常勤・非常勤の職員は約80人。清住職は「法人の拡大は落ち着く方向」と展望する》

――今後の見通しは。

 「私自身は理事を退き、アドバイザーの立場で会議などに参加している。現在は、経営や運営は杉野恵代表理事と西岡易子理事長、ビハーラ僧には三浦紀夫理事・事務局長がおり、この3人の体制がうまく機能している」

 「法人としては、ほぼ同じ規模で推移すると予測している。ビハーラに理解のある寺院が場所を貸し出し、運営や経営は別法人が行うことで、より広域性のある取り組みにしていけるのではないか」

不動産活用、広がる選択肢

 《仏教教団では、所有する不動産の活用の動きが進む。清住職が宗議会議員を務める真宗大谷派では、旧了徳寺敷地(京都市上京区)の一部について、入院する子どもの家族が滞在する施設の建設を前提に、京都府立医科大学を運営する京都府公立大学法人に40年間無償貸与することを決めた》

――各宗派では、所有不動産の活用から安定財源を確保する方向が目立ちます。

 「旧了徳寺敷地は、これまでの境内地から固定資産税がかかるようになり、宗派が税金分を負担する方向になった。有償での貸し出しか税金の免除を目指すべきだった。とはいえ、ただの批判でとどまってはいけない」

 「滞在施設が動き出すのだから、大谷大学や龍谷大学でビハーラ活動などを学んでいる学生や僧侶が関わっていけるようにすべきだ。ボランティアとして参画することで、より実践的な社会貢献につながる上に、運営のノウハウも得られる」

――昨今は宗教不信が高まっており、宗教界全体に逆風が吹いています。

 「葬式と終末期だけでなく、人生に今すぐ関われるということを仏教者として示していくことで、信頼が得られると考える。保育や福祉事業を展開する寺院は、より仏教理念を体現していくことで制度外の分野をカバーし、一般の事業者と差別化できる。むしろ強みをつくれるだろう」

 「経営には向き不向きがあり、僧侶が一手に担うべきではない。ビハーラ21では、仏教思想に理解のある経営者が経営を担い、僧侶が理念を体現している。浄土真宗本願寺派は、独立型緩和ケア病棟のあそかビハーラ病院(京都府城陽市)の経営を民間に譲渡したが、これが機能すれば大きく成功する可能性がある」

【用語解説】ビハーラ活動(仏教全般)

 医療・福祉と協働し、人々の苦悩を和らげる仏教徒の活動。生老病死の苦しみや悲しみに寄り添い、全人的なケアを目指す。仏教ホスピスに代わる用語として提唱されたビハーラを基に、1987(昭和62)年に始まった。ビハーラはサンスクリット語で「僧院」「身心の安らぎ」「休息の場所」などの意味。

【用語解説】チャプレン(宗教全般)

 主にキリスト教で、教会以外の施設・団体で心のケアに当たる聖職者。仏教僧侶などほかの宗教者にも使われる。日本では主に病院で活動しており、海外には学校や軍隊などで働く聖職者もいる。

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