2022年9月12日 | 2022年9月27日更新
6年前、居宅介護サービスのケアマネジャーだった谷本力也さんに、こんなことがあった。
(支援することから逃げない 谷本力也さん㊥ からつづく)
余命3カ月の利用者Bさんを担当することになった。音楽家であり、妻と離婚していたBさんは、人工透析をしながら「弟子」の女性と暮らしていた。
自宅で最期を過ごすと決断した場合、残り数カ月は人工透析もやめ、静かにその時を迎えるのが一般的だ。ところが弟子の女性は「何としてでも人工透析を続け、1日でも長く生きながらえてほしい」と訴えてきた。
「余命3カ月と聞いていたのですが、ひと月半後にはもう衰弱して、無理のできない状態でした。普通であれば自然に任せて死を待つのですが、お弟子さんが病院に掛け合う姿を見て、私も担当医にお願いするため病院に通い続けました」
日中は訪問看護師やヘルパーと連携を取り、身体介護を続けた。谷本さんも毎日夕方に様子を見に行くなど、できる限りのサービスを行ったが、Bさんは約3カ月後、弟子に見守られて息を引き取った。
その後、谷本さんはグリーフ(悲嘆)ケアを行うため、弟子の女性とBさんの担当をした看護・介護スタッフを集めた。そこで思いもよらなかった事実を知る。
「実はBさんとお弟子さんは、亡くなる10日前に婚姻届を出し、夫婦になられていたのです」
結婚したことを看護師もヘルパーも知っていて、なぜか谷本さんだけが知らなかったというが、弟子の女性はBさんを慕い、最期の短い間だけでも夫婦でいられたことを、心からうれしそうにしていたのだった。
「ニーズに応えられてよかったと思いました」。なぜあんなにも弟子が人工透析を続けさせたいと懇願していたのか、全てを悟った谷本さん。師匠と弟子の間柄から、最終的な愛の形を目の当たりにした印象深い利用者だったと振り返る。
グリーフケアは、愛する人を亡くした悲しみや複雑な心の状態に寄り添うことだが、谷本さんは「介護するわれわれが、一人の死を通して学ぶことはたくさんある。グリーフケアは、たとえ短い間でも出会えたことに感謝し、われわれが次に進むためのものでもあるのです」と語る。
敬意と感謝を忘れないこと。谷本さんの信条である。