2022年9月29日 | 2022年12月7日更新
筆も水も使わない。チョークのような顔料を粉末にし、コットンを使ってくるくると模様を描いていく。子どもから高齢者まで誰でも気軽に楽しめて、心をリラックスさせる優しい色合いの作品が、たちまち出来上がる。絵心がなくても絵になっていくという。
そんなパステルシャインアートに、大谷さんは魅了された。元々はパソコンのインストラクターをしていたというが、関連する資格を次々と取得。自宅にアトリエを構え、講師になった。
そして、母のトミ子さん(91)がアルツハイマー型認知症になった。
独居の母を世話するため、実家に通う生活が始まった。単なる家事の手伝いや見守りだけではない。「私が認知症を治す!」。そうした意気込みで、一緒にパステルシャインアートをするよう勧めた。
トミ子さんは書道をたしなんでいたが、実際にパステルシャインアートを体験してみて、絵にも興味があることが分かった。
「私よりもずっと創造性のある作品を描いて驚きました。イメージを膨らませるのが上手で、私にとっては母のパステルシャインアートが発想の源になりました」。週1、2回デイサービスが休みの日に実家へ行き、そのたびにトミ子さんはこう言って喜んだ。
「あなたが来ると楽しいことがある」
作品の制作だけでなく、美術鑑賞に出かけるなど、親子で楽しみを共有した。
トミ子さんの作品が増えるにつれ、大谷さんはあることを思い付く。通っているデイサービスで、パステルシャインアートの教室をボランティアで開くことだ。
「デイサービスも歓迎してくれました。ポイントは、母を私のアシスタントにつけたこと。母が他の利用者さんのそばで、お世話をする場面が見られました」。事前に自宅で練習した成果があったという。
それ以降、新型コロナウイルスの感染が拡大してからも、自宅と介護施設をリモートでつなぎ、教室を開いている。
トミ子さんの活躍は、たしかに大谷さんの気持ちを和ませた。ただ、必ずしも介護は順風満帆とはいかなかった。