2022年10月27日
ある介護事業会社は、社長が裸一貫から立ち上げ、規模は小さいながら温かみのあるサービスが業界内で高い評価を得ていました。
社長は介護職としての勤務経験が長く、現場の事情にも精通していたことから、事業に関することは全て自分で行うタイプでした。しかし、新しく開設する有料老人ホームが、これまでの事業エリアから離れていることもあり「これを機に自分の片腕となる人物を育てよう」と考えました。今後、事業規模を拡大させ、エリアごとに幹部社員を配置し、自分は彼らのマネジメントに徹する仕組みづくりに着手しようとしたのです。
社長から新ホームを任された社員は大感激、「少しでも社長を楽にできるように精いっぱい努力します」と意気込みを語りました。
しかし、この社員の熱意とは裏腹に、新ホームの入居率は低いままでした。
これまで高い評価を得てきたサービスの品質などは新ホームでも導入されています。周辺にはライバルとなる高齢者施設が多い地域ですが、それほど入居が低迷するとは思えませんでした。
やがてその理由が判明します。新ホームを任された社員が、新規の入居希望の大半を断っていたのです。
この会社の社長は、非常に世話好きな性格であり、介護拒否などいわゆる「困難事例」と呼ばれる高齢者も積極的に受け入れていました。しかし、その結果、負担を感じて離職をしてしまうスタッフもいました。「スタッフの採用をどうしようか…」と頭を抱える社長の様子を見てきたこの社員は「少しでも問題がありそうな人の入居を断る=社長が楽になる」と考えていたのです。
彼に愛社精神や社長を尊敬する気持ちがなかったわけではありません。むしろありすぎるほどでしょう。しかし、「収益を上げることが最大の目的」という民間企業としての基本的な考えが欠如していました。経営者として、自身の片腕を育成するのは重要ですが、経営的な視点を持った人物でないと、こうした失敗につながりかねません。