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お寺と福祉の情報局

相模原事件の死刑囚と、支援者が持つ排除の論理

2023年10月29日 | 2023年10月29日更新

 相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で2016(平成28)年7月、入所者ら45人が殺傷された相模原障害者施設殺傷事件=用語解説=をテーマにした勉強会が、堺市内で行われた。ジャンルを問わずに学び合う「男塾」(佐藤正一塾長)の主催で、発生2カ月後から毎年、事件と向き合ってきた。今年は「守るのか 排除なのか―津久井やまゆり園事件と私」と題し、参加した14人が時間を忘れて語り合った。

堺市「男塾」が勉強会

 9月21日夜。佐藤塾長が運営する子ども食堂「ひみつ基地」(堺市西区)から子どもたちが帰るころ、入れ替わりで大人たちがやってきた。参加者は障害者グループホームの運営者や生活介護事業所の看護師、相談支援事業所を手掛ける経営者など。医療・福祉職中心の顔ぶれだ。

 男塾の参加者たちは事件当初から、津久井やまゆり園に勤務していた植松聖死刑囚の抱える問題を、自分ごととして捉えてきた。

 勉強会の中心となって発表役を担っているのが、NPO法人サポートグループほわほわの会(大阪府和泉市)代表理事の宮﨑充弘さん。知的障害者らの地域生活支援に長年携わってきた経験から、大阪府の相談支援専門員の養成研修講師を務めるなど、行政と協力して人材育成や制度の啓発に取り組んでいる。

相模原障害者施設殺傷事件について問題提起する宮﨑充弘さん(奥)
相模原障害者施設殺傷事件について問題提起する宮﨑充弘さん(奥)

 そんな宮﨑さんがこの日、最初に引き合いに出したのが、人気アニメ『呪術廻戦』だった。

『呪術廻戦』に学ぶ「守る」理由

 『呪術廻戦』は、人間の負の感情から生まれる「呪霊」をはらう呪術師たちを描いた物語だ。五条悟と夏油傑という敵同士は、かつて共に人間を守る親友同士だったが、あるとき夏油は呪霊を生みだす人間そのものを排除すべきだという発想になってしまう。

 そうした考え方は、障害者の命を守る施設で働きながら「障害者は不幸を作ることしかできない」と排除する方向に転じた植松死刑囚の理屈と重なる。

 宮﨑さんは「植松死刑囚の考え方にどう答えるのかを、自分自身に問い続け、考え続けることが私たちの役割だ」と指摘し、参加者たちにこう訴えた。

 「何のために障害者を支援しているのか、答えられない支援者が多すぎる。逃げていては駄目だ」

 宮﨑さんは、津久井やまゆり園が1964(昭和39)年に日本初の重度知的障害者の専門施設として設置されたこと、入所希望者の多さに反比例して職員がなかなか集まらず、素人による劣悪な支援が行われていたとされることを説明した。

 「障害者のため」と言いながら、どんどん疲弊していく職場環境が「排除」につながった可能性を示唆したのだ。

 「命を奪ってはならないのは分かる。ではなぜ守るのか。命だから守る、という薄っぺらい話ではない」。宮﨑さんはそう語った。

自分ごととして、孤立防ぐ

 参加者は三つのグループに分かれて、意見を出し合った。

宮﨑さんの講義を聞き、参加者同士で語り合った
宮﨑さんの講義を聞き、参加者同士で語り合った

 「命は誰のものなのか。少なくとも、植松死刑囚のものではなかった」

 「障害者をゼロにするという意識は、人間を障害の有無で区別しないという方向にもっていくべきだった」

 「植松死刑囚にとっては、他の職員もやりがいを持って働いているように見えなかったのではないか」

 誰の意見も否定しない「男塾」のルールにのっとって、さまざまな論点が浮かび上がる。

 宮﨑さんは「彼は孤立していた」と述べた。もし、誰かに自分の感情や考えを打ち明けることができていれば、凶行に及ばなかったのではないか―。

 最後に、佐藤塾長が話をこう引き取った。

 「志の高い人が、周りから理解されず、孤立する例もある。少なくとも、きょう集まったみんながつながることが大切だ。あすはわが身なのだから」

【用語解説】相模原障害者施設殺傷事件

 2016(平成28)年7月26日未明、相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で、元職員の植松聖死刑囚が入所者19人を刺殺し、他の入所者24人と職員2人に重軽傷を負わせた。植松死刑囚は事件前から障害者を差別する発言を繰り返していたとされる。20年3月に横浜地裁で死刑判決が言い渡され、植松死刑囚は自ら控訴を取り下げて確定。22年4月に再審請求を行った。

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