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「助けて」言い合おう 桑名に親なきあと相談室

2024年12月31日

※文化時報2024年11月1日号の掲載記事です。

 三重県桑名市の浄土真宗本願寺派善西寺(矢田俊量住職)が一般財団法人お寺と教会の親なきあと相談室(小野木康雄代表理事)の支部を開設し、10月19日に開設記念講演会を開いた。障害のある子やひきこもりの子の面倒を親が見られなくなる「親なきあと」への備えをテーマに、重度の知的障害の長女(21)がいる同財団理事兼アドバイザーの藤井奈緒さん(51)=大阪府八尾市=が登壇。当事者・家族や支援者ら約40人がわがごととして考えた。

 藤井さんは長女の「親なきあと」を次女(15)1人に引き受けさせるかもしれない―という状況に危機感を抱き、自ら勉強を重ねるとともに、当事者・家族と専門職や宗教者の架け橋となるべくさまざまな相談に乗っている。

 この日の講演では、成年後見人=用語解説=や福祉事業者、きょうだいや地域の人々は、誰も親の代わりになれないと説明。「親にしかできない備えをきちんとしておくことで、それぞれにできることを引き受けてもらうのが大切」と訴えた。

(画像:「親なきあと」の備えの大切さを訴える藤井さん=10月19日、三重県桑名市の善西寺)
「親なきあと」の備えの大切さを訴える藤井さん=10月19日、三重県桑名市の善西寺

 また、生活費に関する相談を最も多く受ける半面、いくらあれば大丈夫かは家庭の事情によるので答えづらいと指摘。「『どれだけ残すか』より『どう残すか』。そして誰がお金を使うお手伝いをしてくれるかがもっと大事」と強調した。

 さらに、社会福祉制度が長らく家族ありきで成り立ってきたことや、親自身が他人の世話になるのに慣れていないことなどを背景に、「制度があってもどれだけの人が使えているか。『助けて』を言い合える仲間を持つことが必要ではないか」と問題提起。宗教者らが親の心配に伴走する必要性を呼び掛けた。

(画像アイキャッチ兼用:会場の本堂で参加者に語り掛ける矢田住職)
会場の本堂で参加者に語り掛ける矢田住職

 お寺と教会の親なきあと相談室の支部はこれで全国18カ所となった。小野木代表理事は開会のあいさつで「お寺が『親なきあと』の駆け込み寺になれるよう、これからも活動を広げていきたい」と述べた。

仲間が仲間を呼ぶお寺

 講演後は、道路を挟んで本堂の向かいにある空き家を利用した2階建てのコミュニティースペース「MONZEN」に場所を移し、「親あるあいだの語らいカフェ」を行った。普段から分かち合いなどさまざまな使い方をしているとあって、障害のある子やひきこもりの子がいる家族や支援者たちが、コーヒーとお菓子を味わいながらゆったりと語り合った。

(画像:コミュニティースペース「MONZEN」で行われた語らいカフェ)
コミュニティースペース「MONZEN」で行われた語らいカフェ

 「親なきあと」に関心があって訪れたという三重県教育委員会スクールソーシャルワーカー(SSW)の中野宏子さんは「お寺だとちょっとした悩みでも相談できるし、癒やしにつながる」。同僚の横井文子さんは「こうした場があるのはすごくいいし、安心感がある。相談者にもお勧めしたい」と話した。

 矢田住職は20年以上前からグリーフ(悲嘆)ケアに携わっており、自助グループの運営や終末期医療について考える活動などを行ってきた。「医療者のネットワークが地元にこそ必要」と感じ、さまざまな人々と知り合う中で、周産期に赤ちゃんを亡くした母親へのケアや子ども食堂、マインドフルネスなど多彩な取り組みをお寺で展開するようになった。

(画像:本堂前に掲示されたチラシ)
本堂前に掲示されたチラシ

 お寺と教会の親なきあと相談室に関しても、これまで活動を共にしてきた看護師や傾聴ボランティアらがスタッフとして参加し、この日の運営に加わった。

 矢田住職は「仲間が仲間をお寺に連れてくるようになり、さまざまな活動が重層化している感じ。今後も仲間と相談して進めていきたい」と意気込みを語った。

【用語解説】成年後見人(せいねんこうけんにん)

 認知症や障害で判断能力が不十分な人に代わって、財産の管理や契約事などを行う人。家庭裁判所が選ぶ法定後見人と、判断能力のあるうちに本人があらかじめ選んでおく任意後見人の2種類がある。法定後見人には、判断能力に応じて「後見」「保佐」「補助」の3類型がある。

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