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⑨介護福祉事業が順調 「はいにこぽん」西栄寺

2023年3月11日

※文化時報2022年10月4日号の掲載記事です。

 浄土真宗系の単立寺院でありながら七つの寺院と三つの布教所を構える泰心山西栄寺(大阪市西淀川区)は、「お寺の介護はいにこぽん」の事業名で2014(平成26)年7月に訪問介護事業所を開設し、介護福祉事業をスタートした。以降3年間で、障害福祉サービス、居宅介護支援、デイサービス、サービス付き高齢者住宅(サ高住)を矢継ぎ早に開始した。これらの介護福祉事業を、社会福祉法人などではなく宗教法人として行っているのが特徴で、事業収支は月数百万円の黒字を出すまでになっている。

お寺のポテンシャル


利用者の外出に同行するお坊さんヘルパー
利用者の外出に同行するお坊さんヘルパー

お寺らしい介護目指す

 西栄寺が介護福祉事業をスタートした狙いと背景について、介護福祉事業部の吉田敬一部長は次のように説明する。

 「お寺を巡る環境が厳しくなり、西栄寺でも檀信徒離れが徐々に起きている。また、単立で宗派の後ろ盾がなく、将来への危機感を抱いていた。存続していくためには、特徴のあるお寺づくりが必要だった」

 お寺が介護福祉事業を行う場合は、社会福祉法人や株式会社などの別法人を設立するケースが多いが、西栄寺は宗教法人の事業として行っている。

 その意図について、吉田部長は「最初から一貫して、お寺が主体となって介護を行いたいという思いがあった。宗教法人自らが介護指定業者の認可を取得することで、お寺が主体のお寺らしい介護の実現を目指した」と話す。

西栄寺の山門
西栄寺の山門

 11年4月には僧侶4人がホームヘルパー2級の資格を取得したが、介護福祉事業を始めるまでには、さらに3年余りを要した。僧侶がお参りに行く時間を削り、介護に当たることへの理解を得る必要などがあったという。

 僧侶は高齢の門信徒宅を訪問すると、「電球が切れたので替えてもらえないか」「買い物に付いて来てほしい」などと頼まれるのが日常茶飯事だ。ならばいっそ、ヘルパーとして訪問介護に携われば、介護事業として成り立つのではないか。そう考えて14年7月、訪問介護事業所を始めた。

地域の人々に喜びを

 訪問介護事業所は当初、「お坊さんヘルパー」を看板に掲げたが、現場では男性よりも女性のヘルパーが活躍する場が多かった。西栄寺の僧侶は男性が大半。そこで一般の女性ヘルパーを雇用した。

 より実践的な介護を行うには、必要なサービスを適切に利用するケアプランの作成が必要となる。15年11月には居宅介護支援事業を開始し、ケアマネジャーを配置した。

 事業が順調に推移したため、続いて訪問介護と組み合わせ可能なデイサービスも始めることにした。「どうせならしっかりとした建物にして、地域の人たちに喜んでいただけるようにしよう」。山田博泰住職はそう決めて、3階建ての介護施設「はいにこぽんのいえ」を建てた。

お寺の介護「はいにこぽんのいえ」の全景
お寺の介護「はいにこぽんのいえ」の全景

 1階をデイとして利用。2、3階はサ高住として「地域で困っている人たちに入居してもらい、お寺としての役割を果たす」ことにした。ここまでを短期間で実現した例は、一般の介護専門事業者でも珍しい。

僧侶が日常的に傾聴

 西栄寺介護福祉事業部の吉田敬一部長によれば、「お寺が主体のお寺らしい介護」が最も表れているのは、デイサービスだ。

 西栄寺のデイは「身体も心もリハビリできる」ことを打ち出している。理学療法士による「身体のリハビリ」に加え、法要や法話会、仏教の紙芝居などを通じた「心のリハビリ」を行っているという。

お盆には施設で法要が営まれる
お盆には施設で法要が営まれる

 また、僧侶が日常的に利用者の隣に座って、しっかり話を聞くようにしている。介護施設に常駐しているのは吉田部長だけだが、介護施設と西栄寺は隣接しており、僧侶は時間のあるときはできるだけ顔を出し、デイの利用者やサ高住の入居者の傾聴をしている。

 また、サ高住には遅出の勤務に就く僧侶のヘルパーもいる。「お寺が主体のお寺らしい介護」に欠かせないのが、僧侶の存在というわけだ。

複合展開で黒字実現

 デイサービスの定員は35人、サ高住は14室で、常に満員・満室という。利用者のうち門信徒は約1割で、それ以外は一般の地域住民。地域包括支援センターなど地域の福祉関係者から評価され、ケアマネから利用者を紹介されることが多い。

 その要因について吉田部長は、お寺が長年にわたって培ってきた安心感と信頼感▽地域の介護・医療機関との連携▽成果が上がり、お寺を介護の社会的資源と見なしてくれるようになったこと―の3点を挙げる。

お坊さんヘルパーに見守られる利用者
お坊さんヘルパーに見守られる利用者

 訪問介護とデイサービス、サ高住を複合展開することで、月数百万円の黒字も実現。入居者からの家賃収入だけでなく、さまざまな介護サービスを利用してもらえれば、介護保険による介護報酬が得られる。

 今後の目標として、吉田部長は「西淀川区の介護事業はある程度のところまで成長できた。今後は、各布教所に介護事業所を併設したい」と語っている。

存在価値が高まる 吉田部長に聞く

――宗教法人として介護事業を行っているところは、あまりありません。

 「お寺では檀家離れや檀家の高齢化などが進んでおり、お寺が存続していくためには、新しいことに取り組む必要があります」

 「介護事業はお寺に向いていると思います。お寺はもともと檀家をお世話しており、社会福祉に慣れている。また、介護事業は宗教法人にとって収益事業であり、非常に大きなメリットになります」

訪問介護の看板
訪問介護の看板

――ほかにもメリットはありますか。

 「介護事業を行って改めて感じたのは、お寺には安心感と信頼感があり、これがほかの介護事業者との差別化になるということです」

 「また、成果を出すことにより、行政もお寺を社会的資源と見てくれるようになってきました。多くのお寺が介護事業を行えば、お寺の存在価値は今一度、高まってくると思います」

 「塚本優と考える お寺のポテンシャル」では、福祉業界や葬祭業界を長年にわたって取材する終活・葬送ジャーナリストの塚本優氏が、お寺の可能性に期待する業界の先進的な取り組みを紹介します。

 

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