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災害時に医療的ケア児をお寺へ 住民らと検討

2023年7月6日

※文化時報2023年5月30日号の掲載記事です。

 大阪市住吉区の浄土宗願生寺(大河内大博住職)は、災害発生時に医療的ケア児=用語解説=の一時避難場所としてお寺を活用してもらおうと、「防災プロジェクト」に取り組んでいる。その過程でまずは地域の防災意識を高める必要があるとして、住民らと共にワークショップを行った。災害弱者を基準にして備えれば、誰もが恩恵を受ける。そんな防災の形が見え始めている。(大橋学修)

 願生寺は南海トラフ巨大地震などを念頭に、2021年10月から防災や医療の専門家と会議を重ねている。要支援者と地域住民が顔の見える関係性を築く必要があるとみて、夏休みに医療的ケア児と小学生が交流する機会などを設けてきた。

 ワークショップは5月14日に開催した。願生寺のある墨江東3丁目町会と隣の清水丘1丁目東町会の住民7人と、医療的ケア児の母親3人が参加。防災看護を専門とする亀井縁・四天王寺大学教授の指導で、災害想像力ゲーム(Disaster Imagination Game=DIG)による図上訓練を行った。

地域の地図に着色しながら、課題を話し合う住民ら
地域の地図に着色しながら、課題を話し合う住民ら

 モノクロ印刷された地図に、幹線道路や緊急車両が入れない道路などを茶色やピンク色で着色しながら、震度6強の地震が発生した際、どのような防災上の課題があるかを考えた。住民からは「電車が止まると遮断機が下がったままになり、消防車が到達できなくなる」「消火栓を住民が使うことができるのか? 場所も分からないし、使い方も知らない」などの声が上がった。

「知る姿勢」芽生える

 障害のある人や高齢者など支援が必要と考えられる人が住む場所には、直径5㍉ほどの色付きのシールを貼った。そこからどのように支援するのかという話題になり、「集合住宅に住む人が誰なのか分からない。管理組合やオーナーは個人情報の関係で教えてくれない」「行政から町会長に要支援者のリストが示されるが、住民で共有するには問題がある」などと課題を話し合った。

 医療的ケア児の母親の小西奈月さんは、自ら申し入れて地域の防災訓練に参加した経験を紹介。「名前や障害のあることは知っていたけど、こういう感じなんやな」と地域住民から理解を得られたといい、「個人的には、知ってもらえることが安心」と話した。

 墨江東3丁目町会の谷口精一副会長は「個人情報の問題もあって、声を掛けていいかどうかも分からなかった。知ろうとすることが大切だと実感した」と話した。

 今後、両町会は複数回のワークショップを重ね、医療的ケア児への支援を含めた地域防災計画をまとめていく方針だ。

中学生とも交流図る

 ワークショップ後には、亀井教授のほか、大阪大学大学院の稲場圭信教授、小西かおる教授、大阪信愛学院大学の阪上由美准教授、福祉・防災のアドバイザリー業務を担う「Office SONOZAKI」の園崎秀治代表による防災プロジェクト会議が行われた。

ワークショップの趣旨を説明する大河内住職(左)と亀井教授
ワークショップの趣旨を説明する大河内住職(左)と亀井教授

 住民の防災や支援への意識について情報を共有し、住民主導で医療的ケア児の支援を考えてもらう方策を協議。

 地域防災活動に取り組む墨江丘中学校で、医療的ケア児に関する出前講座を開催できるよう折衝し、医療的ケア児と中学生が交流する機会の確保を図る方法を考えた。
 今後の課題は、ワークショップに参加していない住民から理解を得ることや、医療的ケア児を持つ母親の多くが抱える地域への不信感を克服することにある。

 小西教授は「傾聴の積み重ねによる信頼とプロフェッショナル性が必要」と強調。大河内住職は「地域のキーパーソンの気付きを促すことで、自発的な取り組みが生まれてくるようにしなければならない」と話した。

【用語解説】医療的ケア児

 人工呼吸器や胃ろうなどを使用し、 痰(たん)の吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な児童。厚生労働省科学研究班の報告では、2017(平成29)年時点で全国に約1万8千人いると推計されている。社会全体で生活を支えることを目的に、国や自治体に支援の責務があると明記した医療的ケア児支援法が21年6月に成立、9月に施行された。

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