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⑬障害者とひきこもりに対処 曹洞宗瑞岩寺

2023年7月17日

※文化時報2023年2月7日号の掲載記事です。

 群馬県太田市の曹洞宗瑞岩寺は、1985(昭和60)年に社会福祉法人毛里田睦会(もりたむつみかい)をつくり、児童福祉、高齢者福祉、障害者福祉の各種事業を次々と展開。今では、従業員数約300人に上り、事業収入は数千万円の宗教法人の15倍を超える。現在は障害者福祉に注力しており、今後は地域に「第三の居場所」をつくることを目指している。

社会福祉法人毛里田睦会が運営する幼保連携型こども園
社会福祉法人毛里田睦会が運営する幼保連携型こども園

四苦の現場に向き合う

 長谷川俊道住職(55)は、大本山永平寺(福井県永平寺町)で3年余り修行した後、東京・東久留米のお寺を経て、米ハワイで開教師として7年半活動した。その後、日本に帰国して、2002(平成14)年に実家の瑞岩寺の副住職に就任した。

 だが、当初は毛里田睦会の経営状況の悪さにがくぜんとした。まずは補助金に頼らない保育園経営に着手。群馬県内の保育園で初めて品質マネジメントシステム規格ISO9001を取得した。顧客満足度は取得前の56%から95%まで向上。他県からも入園希望者がやってくるほどの人気保育園に育て上げた。

 その後も、お寺の改革と並行して社会福祉法人の事業を拡大。高齢者関係では特別養護老人ホームやショートステイ、宅食サービスなど、障害者関係ではグループホームや就労支援などの事業を行ってきた。

 長谷川住職は毛里田睦会の理事長として指揮を執るが、その理由は「お葬式や法事だけでなく、『四苦の現場』に向き合い、実践するため」だと語る。

長谷川住職。社会福祉法人の理事長として、数々の福祉事業を手掛ける
長谷川住職。社会福祉法人の理事長として、数々の福祉事業を手掛ける

 また、子どもの人口は年々減っており、高齢者の数もやがては減少に転じる。そうした中、お寺をどのように次世代へバトンタッチしていくかを考えると、「現在はいろいろなことを複合的に行っていく必要がある」という。

農福連携で就労支援

 毛里田睦会の事業の中でも、現在特に力を入れているのが、障害者福祉。背景には、障害のある人が増えてきた印象を持っていることがあるという。

 「私が檀家を回っていても、現実に障害者のいる家庭がある。ところが、そのことを表に出さず、家庭内で悩みを抱えている」

 昨年5月には障害者のグループホームを開設。男性専用で、個室10室を備える。「障害のある人は、心が純粋で芸術に才能がある場合が多いから」と、少しでも生活の足しになるよう、絵画や陶芸の先生を招いて教えたりしている。

 ただ、障害者やひきこもりの人の就労支援は簡単ではないという。

障害者グループホーム
障害者グループホーム

 「例えば、1日のプログラムの中にお寺の庭の掃除を入れても、なかなか長くは続かない。ひきこもっていると、体力がなくなるからだ」

 また、企業は障害者雇用促進法に基づき、規模に応じて一定割合の障害者を雇用する義務があるが、それができないため外部に丸投げしているケースもあるという。

 こうした現状の打開策として、長谷川住職は、障害者らに農業に取り組んでもらおうと計画している。「農福連携」だ。

 「当寺の周りには、檀家が年を取って農業を諦めてしまった田畑がたくさんある。そこを借りて、障害者やひきこもりの人と一緒に米や野菜を作れれば」

 昼夜逆転の生活を続け、食べるものはコンビニ弁当、1日に会う人は誰もいないとなれば、家にひきこもってしまうのは自然の流れ。だからこそ外に出る機会をつくり、皆とワイワイ農業をする。「人と会うことが人間らしい生活をする一番の方法」と、長谷川住職は話す。

人が人を育てる場に

 長谷川住職が目標とするのは、やはり寺院が立ち上げた社会福祉法人佛子園(石川県白山市)。福祉施設に温泉やカフェ、フィットネスクラブを開設し、子どもから高齢者まで、障害者もひきこもりの人も一緒に過ごせる〝ごちゃまぜ〟の地域コミュニティーをつくっている。

瑞岩寺の本堂
瑞岩寺の本堂

 昔は、曽祖父母とひ孫が共に暮らすような大家族がたくさんあった。個性豊かなさまざまな人がいて、その中でもまれることで強い人間に育った。それを体現するのがごちゃまぜのコミュニティーであり「第三の居場所」だと、長谷川住職は考えている。

 瑞岩寺周辺の土地は農地にしか使えない「市街化調整区域」に該当しており、温泉やカフェをつくろうと申請しても、なかなか許可が下りないのだという。

 それでも、「そのうち時代の流れが変わると思うし、近いうちにもう1回、知事に直談判に行こうと思っている」と長谷川住職。人が人を育てる場づくりの実現に向け、意欲を燃やしている。

 

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