2023年10月25日 | 2023年11月2日更新
「イーヤササ、イーヤササ」。沖縄民謡で介護現場の魅力を伝える動画投稿サイト「ユーチューブ」が人気を呼んでいる。配信するのはNPO法人「ライフサポートてだこ」の小規模多機能ホームあん(沖縄県浦添市)。ひときわ目を引くのは、施設で行う職員の結婚式動画だ。利用者全員でおめかしをして、女性職員の門出を祝う姿には思わずほっこりさせられる。他にも、利用者のやりたいことや希望があれば、かなえるために職員が協力して企画。その様子は、他の介護施設では見られないほど凝ったもので、全力で楽しんでいる様子が映し出されている。
新卒時からNPO法人ライフサポートで働く介護職員の高宮城礼奈さん(30)は2022年4月、施設のサプライズで、利用者と職員による手作り結婚式で祝福された。
新婦入場から始まり、新婦の父親役は普段から関わりが多い男性利用者にお願いした。緊張した面持ちで、花嫁姿の高宮城さんとゆっくり歩いた。
利用者が式を進行し、新郎新婦が誓いの言葉や三々九度の儀式を行う。
本来は職員がやってしまった方が早いことを、小規模多機能ホームあんでは、職員が丁寧にサポートし、利用者も準備段階からしっかり運営に加わっている。結婚式に限らず、それぞれが役割を持って取り組み、達成感を味わえるイベントにすることを心がけている。
乾杯の挨拶では利用者の女性が代表してマイクを握った。「あんのおばぁたちも、みんなで一緒になって、あなた方の幸せを願っていますよ」と笑顔で伝えた。
「最初は結婚式をしてくださると聞いてびっくり。恥ずかしい気持ちもありましたが、利用者の皆さんがレクリエーションの合間に準備してくださったのがうれしかったです」と、高宮城さんは笑っていた。
高宮城さんが介護職を選んだのは、高校時代のインターンシップでデイサービスに通ったのがきっかけだった。元々習っていた琉球舞踊を踊ったところ、利用者が涙を流して感激してくれた。
「介護職なら、私の琉球舞踊が生かせるかもと思いました。こんなに幸せな仕事があるんだと知って、福祉の道へ進むことにしました。今も、敬老会やお祭りなどのイベントで踊らせてもらっています」
結婚式当日は、高宮城さんも夫妻で琉球舞踊を披露した。夫は沖縄芸能で世界を回っているといい、利用者たちの前で本格的な感謝の舞を披露して盛り上がった。
現在は産休を終えて7月から復職。初の子育てと仕事の両立で慌ただしい毎日を送るが、「あんは子育て世代の職員にも優しい」と笑顔で語る。
「今までと時間の使い方が違って、子どものことで保育園から連絡が来たり、風邪で休んだりすることも増えました。それでも、職員の方々はとても親切に接してくれます。いつか恩返しをしたいですし、私はあんが大好きです」
高宮城さん以外の職員にも、結婚式など人生の節目を祝うときは、利用者と職員が家族のように祝っている。
今でこそ、観光地として脚光を浴びる沖縄。だが、78年前の第2次世界大戦末期には米英の連合軍と日本軍の戦いがあった。この激しい戦闘で住民約9万4千人が命を落とした歴史がある。
あんに通所する利用者の多くが、生まれた時から沖縄で暮らしている。高宮城さんも戦争を経験した利用者から戦争の悲惨さを聞く機会があった。
「戦争がいかに大変で苦しいことか、利用者さんは私たちに話すことで、つらい過去を思い出さなくてはなりません。でも、教えてもらったからには二度と同じことが起きないよう、次につなげなくてはと感じます」
あんでは終末期の看取(みと)りも行っている。たくさんの苦労を乗り越え、楽しい時も過ごした利用者との別れに最期まで寄り添う。
「あんに来てよかった、私たちに出会えてよかったとそんな言葉が聞けるように毎日頑張っていこうと思います」と高宮城さんは話していた。
沖縄には「カジマヤー」という97歳の高齢者をお祝いする伝統文化がある。
あんでは女性利用者のAさんが「私もカジマヤーをやってほしい」と希望し、願いをかなえるため職員が全力で動いた。
当日はオレンジのオープンカーをレンタルして、Aさんを乗せて集落をパレードして回った。管理者の外間さよさん(32)は、後ろに座りAさんの様子を見守りながら動画を回していた。
「一生に一度のイベントを盛大にお祝いできるよう事前に地域にチラシを配って、地域の皆さんにご協力いただきました。Aさんもこの日のために、病気を乗り越えられカジマヤーを目標に過ごしてこられました」
オープンカーを先導するあんの社用車も、赤やピンクで派手に装飾され、児童館、保育園や小学校、事業所を巡った。手には風車を持ち、「Aさん、おめでとう」と声をかけられ、盛大に祝ってもらった。
動画の中でにこやかに笑うAさん、疲れた様子も見せず喜びを全身で表現していた。
利用者の中に「健康よりも平和が大事」と語る人がいた。いくら健康でも、平和でなくては意味がない。
日本が平和だからこそできるカジマヤー。利用者たちが子どもの頃に味わった惨劇を振り返れば、夢のような幸せな時代が来た。それを誰よりも知っているのは沖縄の住民だ。
「介護の印象をポジティブに変えたい」と始めたあんのユーチューブ。現在、登録者数が4000人を超え、収益を得られるまでになった。利用者と介護現場のイメージアップ以上に沖縄の平和の象徴になっているのかもしれない。
沖縄おばぁのユーチューブはこちら↓