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生きることば

寂寞を敵とし友とし雪のなかに…

2024年1月29日

寂莫(せきばく)を敵とし友とし
雪のなかに
長き一生を送る人もあり
――歌人・詩人、石川啄木(1886~1912)

生きることば

 寂寞とは、静かでものさびしい様子を表す言葉です。

 石川啄木の処女歌集『一握の砂』に収録されたこの歌は、彼が北海道で過ごした日々を回想したものだとされています。

 曹洞宗の住職の家に生まれた啄木は、旧制中学時代から文学の道を志しますが、その生活は常に困窮していました。中学を退学して上京するも、職を得られず病も患ってしまいます。帰郷した後は、住職を罷免された父や妻子を支えるため教員として働きますが、一年で失職します。

 1907(明治40)年、啄木は生まれ育った岩手県を離れ、職を求めて北海道に渡りました。

 啄木は北海道でも不安定な暮らしを送りました。函館で新聞記者と教員の職を得ますが、大火により職場が燃えてしまいました。その後、妻子を函館に置いたまま、札幌、小樽、釧路などを転々とすることになります。

 先行きを見通せない苦しい思いを詠んだこの歌には、しかし、悲愴感(ひそうかん)はありません。

 雪の降るただ中にいると、何も見えず音も聞こえない状態になります。寒さに凍えて、どこを目指せばいいのかも分からなくなってしまうかもしれません。その寂しさを、時に敵として自らを奮い立たせ、時に友として身をゆだねる。そうして啄木は前に進んでいったのでしょう。

 「長き一生を送る人もあり」――この一節には、孤独を感じている人が自分以外にもいるという希望が感じられます。

 現代でも、孤独な闘いを強いられている人はいるでしょう。しかし、白くて何も見えない吹雪の向こうには、同じように闘う人々がいます。決して一人きりではないのです。

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