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インタビュー

橋渡しインタビュー

「フラミンゴ」で転倒予防 荻野秀一郎さん

2023年9月10日

 作業療法士の荻野秀一郎さん(33)は2020年、東京都大田区に「認知症と転倒予防教室フラミンゴ」をオープン。コロナ禍でYouTube配信に力を入れ、今ではチャンネル登録者数が約8万人となった。そのうち約70%は65歳以上という。高齢者の寿命が延びている時代だからこそ「いつまでも元気に、明るく過ごせるように」と、一人一人に合ったプログラムを組み、運動支援を行っている。

 YouTube「フラミンゴの介護予防チャンネル」では、白いポロシャツにピンクの短パンを着た荻野さんが登場し、丁寧な解説とともに、筋力アップや転倒予防の体操を行っている。

作業療法士の荻野秀一郎さん
作業療法士の荻野秀一郎さん

 きっかけは、以前勤めていた訪問リハビリのケアマネジャーから「コロナ禍でデイサービスを利用できなくなった高齢者が多くて困っている」と聞いたことだった。

 家から出る目的がなくなり、人に会う機会が減った高齢者が、このままでは孤立するだけでなく、足腰が衰えますます歩けなくなる―。そんな事態に危機感を覚え、何かできないかと始めたのがYouTubeだった。

 動画では「10分有酸素運動 高齢者の為のお家ウォーキング」や「衰えやすい背筋 椅子筋トレ」など、70代〜80代の高齢者でも可能な運動を配信している。「毎日頑張っています」とコメントをくれる視聴者の声が励みになっている。

 けがをせず安全に運動するため、穏やかな口調で画面越しに声をかける。一つ一つの動作をゆっくり丁寧に行っているので、見ている方は焦らなくて済み、「これならできるかも」と思わせてくれる。

 「介護士さんがやるレクリエーションのネタ作りにも役立つ体操。動画を見てヒントにしてくれたらうれしいです」と、荻野さんは話す。

リハビリが必要な人がたくさんいる

 作業療法士になって11年目という荻野さん。高校時代はラグビー部に所属し、高校3年の秋にようやく卒業後のことを考え始めた。

教室名はバランスが抜群な鳥、フラミンゴから名付けた
教室名はバランスが抜群な鳥、フラミンゴから名付けた

 進路相談では「人当たりがいいから介護系の仕事が向いてるかも」と勧められた。それならば、と素直に医療系の帝京平成大学に進学した。

 「現場実習を見て、ラグビー部時代を思い出しました。けがをすると復帰が難しくなることは知っていたので、作業療法士はけが人を一刻も早く元の身体に戻す仕事なんだと学びました」

 卒業後はリハビリ専門の回復期病院に就職。高齢者の担当をする機会が多く、退院後の生活を考えて家事や屋外に出る練習に寄り添うのは、魅力的な仕事に感じた。病気のことに詳しくなろうといったん急性期病院に移り、その後訪問リハビリの事業所に転職して、高齢者の自宅へ通うようになった。

 在宅でのリハビリを通じ、元気だった頃の生活に少しでも戻ってほしい―。そう願って仕事に打ち込んだが、リハビリがある程度進むと自立して生活できると判断され、介護保険サービスを切られてしまうという現実もあった。

 利用者が「歩けるようにはなっても、完全に治ったわけではないのに…。荻野先生と離れたら、どうしたらいいの」と途方に暮れる姿を見て、寂しくなったという。

 訪問リハビリが終了した高齢者は、その後どう過ごしているのか。気になった荻野さんは、足を運んで調べた。

 「老人会や地域でやっている体操サークルなどに参加するよう促されていることを知りました。いくつか見学させてもらうと、指導する方に医療職がいない。申し訳ないですが、どこか素人っぽさのある運動指導が多く、作業療法士としては正直自信を持って送り出せないと思ってしまいました」

 ならば自分で開こうと、フリーの作業療法士として独立。体の不調を感じる高齢者に対し、正しい予防方法を伝えていくことで日常生活を豊かに過ごしてもらおうと、大田区の雑色商店街に店舗を構えた。

 現在は商店街に買い物に来る常連客を中心に、地域の高齢者たちが荻野さんを頼って通っている。

商店街と高齢者を元気に

 雑色商店街は、多くの店舗が軒を連ねる都内有数の商店街だ。人通りが少なくシャッター通りとなってしまった商店街が全国にたくさんある中、雑色商店街は昔ながらの個人商店が多く残り、地域住民に愛されている。

 「街が元気なら、高齢者も楽しく元気に過ごせると思っています。みんなで助け合って、街を活性化させたい」。商店街の青年部部長や常任理事などの役職を引き受け、活性化のために奮闘している。

買い物に来る常連客が多く通う
買い物に来る常連客が多く通う

 「下町で暮らしてきた人たちは商店街で情報を得ています。横のつながりが強く、お互いに助け合っている光景があり、私も商店街の運営に力を入れていこうと思いました。特に高齢者の方がよく行くようなお店とは交流を大事にして、コラボしたいです」

 人情味あふれる商店街で、若くてさわやかな作業療法士の挑戦が続く。

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