2023年10月22日
2022年8月、横浜市南区に就労継続支援B型事業所=用語解説=の COLORS弘明寺がオープンした。身体・知的・精神障害者が就労する場として通所している。運営する塚本拓海さん(27)はコロナ禍でうつ病を発症したことにより、福祉サービスの実態を知った。自分と同じような状況にいる人の役に立ちたいと、同級生2人を誘って福祉事業を展開。事業所の平均より約1.5倍も工賃が高いことや、作業内容に特徴がある事業所となり、注目を集めている。
一般の事業所では部品の組み立てやシール貼りなど、単調で単価の低い仕事がメインになることは決して珍しくないが、COLORS弘明寺では、作業内容が充実している。
主に「コーヒー豆の選別・焙煎(ばいせん)」「メダカの飼育」「水草養殖」「竹コップの花瓶や灯籠制作」を行っており、利用者たちはその日の体調や気分によって、それぞれが好きな作業を選んで取り組める。
商品はオンラインで販売しており、中でもコーヒーは人気商品。利用者が焙煎やドリップバッグの製造を行っている。価格が高い生豆を仕入れ、虫食いや不良豆がないか選別し、注文が入った時点で焙煎を始める。当日にひきたての豆を即発送するのがCOLORS弘明寺の売りだ。
コーヒーは決して安価ではなく、本当に飲みたい人が買ってくれるようにと、あえて障害者施設で焙煎していることを大きくはうたっていない。
屋上では、メダカやアクアリウムで使う水草やハスなどを育てており、1匹1000円するメダカを取り扱って繁殖も行っている。
竹コップ制作では、東京ミッドタウン日比谷(東京都千代田区)のイベントで、手作りの灯籠としてライトアップに使用された。オープンしたばかりの事業所が都内のイベントで日の目を見た背景には、塚本さんの前の職場がイベント会社だったことも関係しているという。
塚本さんはコロナ禍で、仕事に追われていた。主体となって動いていたイベントが軒並み中止になり、売り上げが出ない日々が続く。次第に精神的に追い詰められ、うつ病を発症した。
病院を受診しながら家で過ごす日々。仕事を辞め、社会とのつながりが途絶えたことに不安を感じていた。福祉サービスを利用するかどうかで悩んだものの、事業所を見学しても通いたい気持ちにはなれなかったという。
ネックになったのが、工賃の低さだった。就労継続支援B型事業所の21年度の平均工賃は月額1万6507 円、時間額233円。それまで一般企業に勤め、安定収入をもらっていた塚本さんには、とても考えられなかった。
その経験から、COLORS弘明寺では利用者の通所回数に応じて1日あたり1200円の工賃を支給。月額最高2万4千円で、他の事業所と比べて約1.5倍も高い工賃とあって、利用者たちもやる気を見せている。
中には心身の体調が優れず、短時間で帰ってしまう人もいるが、工賃は変わらない。徐々に作業や雰囲気に慣れてくれば、1日を通して就労できるようになる利用者が増えるため、一人一人のタイミングで、本来の力を発揮できる日が来ればいいと考えている。「1200円の工賃で、働くことへの希望や意欲につながってほしい」と塚本さんは話す。
塚本さんはうつ病から徐々に体調を戻していく中で「自分と同じような症状や障害を持つ人でも、安心して働ける場所をつくっていきたい」という気持ちが芽生えてきた。自ら同級生に声をかけ、福祉業界に挑戦することを決意。福祉に携わった経験が少ないため周囲からは心配されたが、他の事業所に足を運び、親身に相談に乗ってもらうなどして、一歩ずつ前進した。
現在も精神科を受診しながら、COLORS弘明寺の運営を担っている。利用者の気持ちが分かるからこそ、安心して通えるようできる限りの工夫を行っている。
オープン1年で利用登録人数は30人ほどになった。事業所をいくつも渡り歩いたが全く続かなかった人も、COLORS弘明寺には休まず来ている。
COLORS弘明寺が好まれる理由として、車の送迎があることも大きい。また、利用者同士で仕事を教え合う姿勢を大事にしており、互いに会話が生まれる。作業を通して、親しい間柄になれる雰囲気づくりをしている。
「利用者のご家族さまから『COLORS弘明寺に通って明るく元気になった』と聞くと、うれしくなります。人数が増えてきたので、今後はまた違う地域にCOLORSの事業所を増やす予定です」
コロナ禍がなければ、うつ病にならなければ―。時として人はそう考えがちだが、塚本さんは逆境を逆手にCOLORS弘明寺を誕生させた。つらい経験をむだにせず、障害のある人たちに優しく手を差し伸べている。
就労継続支援B型事業所
一般企業で働くことが難しい障害者が、軽作業などを通じた就労の機会や訓練を受けられる福祉事業所。障害者総合支援法に基づいている。工賃が支払われるが、雇用契約を結ばないため、最低賃金は適用されない。