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インタビュー

橋渡しインタビュー

介護+「好きなこと」を大切に 藤良多さん

2024年2月9日

 水戸市を活動拠点とする介護福祉士兼シンガー・ソングライター、藤良多さん(38)。2011(平成23)年の東日本大震災をきっかけに、被災地を含む東日本各地へ歌を届けた。亡き父から言われた「立派な介護福祉士になれよ」との言葉を胸に、勤務先の介護施設では、利用者に全力で向き合う。

介護職「毎日があっという間」

 社会福祉法人北養会の特別養護老人ホームもみじ館(水戸市)にあるデイサービスが、藤さんの現在の職場だ。勤めはじめて約半年。これまでに特養や老人保健施設などで勤務した経験を生かし、介護技術を高めながら忙しい日々を送る。

写真① 真正面
キャプ 茨城県常陸太田市出身のシンガー・ソングライター藤良多さん
茨城県常陸太田市出身のシンガー・ソングライター藤良多さん

 コロナ禍では、どの介護施設も感染対策が徹底され、入居者は家族にさえ会えない時期が長く続いた。介護士たちは全力で入居者を守ったが、感染者が出るとたちまちクラスターが発生。藤さんも、心身が弱り切ってどうにもならない日々を経験したという。

 それでも、今は気持ちを新たに、現場で活躍したいと願っている。

 目の前にいる入居者や、共に働く職員のために最善を尽くすと、時間はあっという間に流れていく。「現場に立つとやることがたくさんあって、毎日が充実しています。最後まで人間らしく生きるとは何か、考えさせられる貴重な職種だと思います」

 たとえ人手不足に直面しても、みんなで協力し合いながらどうにか乗り越える瞬間が好きだとほほ笑む。

バンドマンから介護士へ

 20代はバンド活動に明け暮れ、パチンコ店で働きながら音楽活動の費用を工面していた。

 そこへ起きた東日本大震災。「自分も何かしなければ」と一念発起し、東日本を一周した。各地で歌を歌いながら、復興への思いを募らせた。数カ月後には宮城・岩手の両県で、被災した住宅の解体作業をボランティアで手伝った。

写真②アイキャッチ兼用:黒背景 横向きの藤さん
キャプ:うれしい時も悲しい時も、音楽が藤さんのそばにある
うれしい時も悲しい時も、音楽が藤さんのそばにある

 「被災地の方たちはすでに前を向いていて、ポジティブな言葉も聞かれました。でも震災直後はどんなにつらく大変だったのだろうと思い、この人たちの力になれることは何かと考えていました」

 人の役に立つため、介護職の道へ進もうと決意。それから10年以上、体力が衰える高齢者に手を差し伸べ、看取(みと)りの瞬間に立ち会うなど、生と死の現場に携わってきた。
  
 「介護現場では、自分の趣味や特技を生かせる場面がいくつもある」と、藤さんは話す。

 特養で認知症の女性入居者、Aさんに出会ったときのことだ。「何ていう名前?」と聞かれたかと思うと、5分後にはまた同じ質問をされた。何度丁寧に答えても、藤良多という名前を全く覚えてもらえなかった。

 ある日、レクリエーションで藤さんがギターを弾きながら軽快に歌った。満面の笑みで音楽に聴き入ってAさんは、その日を境に藤さんを「ギターのお兄ちゃん」と呼ぶようになった。亡くなる日まで、親しみを込めてそう呼び続けたという。音楽で認知症のケアができる可能性を感じた出来事だった。

写真③ 現場の藤さん
キャプ 歌うチャンスがあれば介護現場でも披露する
歌うチャンスがあれば介護現場でも披露する

 主任になって部下を指導する立場になったころ、ネイル好きの職員が入居者の爪をきれいにしようと、仕事の合間にマニキュアを塗ってあげている場面を見た。施設として大っぴらにすることは難しくても、藤さんはその職員に、続けるよう勧めた。

 「ワクワクを届けようとする気持ちが、とても大事。いざとなれば僕が怒られればいいと思っていました」
 
 入居者だけでなく、藤さん自身も介護と音楽で助けられている。介護職として働くときは音楽を披露することで入居者を喜ばせ、音楽でステージに立つときは介護の話題を出して観客の関心を引き寄せる。

あなたを待っている人がいる

 2023年10月末、茨城県常陸太田市水府総合センターで、初のホールワンマンを成し遂げた。200人以上を動員し、「藤良多BAND」の仲間たちとスポットライトを浴びながら、心の底から全身の力を込めて歌った。

写真④ 5人並ぶ
キャプ ステージで全てを出し切った「藤良多バンド」
ステージで全てを出し切った「藤良多バンド」

 応援に駆けつけた観客の中には、介護士が何人もいた。「同じ介護士として前向きになれた」「楽しい気持ちになれた、ありがとう」との感想をもらったという。

 藤さんは、介護職が特技を隠し持つのはもったいないと話す。

 「僕自身はずっと好きなことを続けてきたら、プライベートで大きなステージに立てました。今は仕事や音楽活動を通して、誰かを喜ばせられると実感しています。介護現場では、あなたを待っている人が必ずいる。特技や好きなことがあれば、披露すると互いに楽しくなると思います」

 自身のインスタグラムで、「来場者200名になったら、茨城の竜神橋からバンジージャンプします」と宣言した藤さん。ただ歌うだけでなく、エンターテインメントの要素を取り入れて、見る人を楽しませたいと笑顔で語った。

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