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インタビュー

橋渡しインタビュー

まちかど保健室で介護・病気予防 吉田栄子さん

2024年6月1日

 埼玉県飯能市の吉田栄子さん(41)は、認定NPO法人ぬくもり福祉会たんぽぽの訪問看護師。同法人が運営するコミュニティーサロンで週1回、「まちかど保健室」を開催している。目的は市民の体の悩みや病気に関する相談を受けることだが、吉田さんは「特に話すことがなくても、顔を出してほしい」と話す。どんな取り組みなのか、実際に訪ねてみた。(飯塚まりな)

 全国で運営されている「まちかど保健室」。保健・医療・福祉の相談窓口として、子どもから高齢者まで幅広い年代の人が利用可能だ。看護師、ケアマネジャー、保健師など専門の有資格者が配置され、無料で相談できる。
 

写真① 建物
キャプ 「まちかど保健室」を開催する「たんぽぽカフェ」
「まちかど保健室」を開催する「たんぽぽカフェ」

 体に関する気掛かりなことを、日常から気兼ねなく話すことで、健康増進や介護予防、認知症予防などの対策ができると考えられている。

 飯能市では、同法人が運営する「たんぽぽカフェ」で毎週月曜午後、吉田さんが中心となり法人による業務の一環として行っている。以前は月1回だったが、今年3月から週1回の開催に増やした。

 どんな活動をしているのか。吉田さんに聞くと、こんな答えが返ってきた。

 「以前来られた方から『爪を切ってほしい』と言われたことがありました。元気な頃は気にも留めなかった爪も、高齢になると一人で切るのが難しくて危険、という方はとても多いです。そういった小さな声をすくい上げて、介護・医療サービスが必要な方や、いまだ介護保険の利用方法を知らない方に、私たちが寄り添って伝えられたらと思います」

 そうこうしているうちに、血圧を測ってほしいという男性が来た。「少し不整脈がありますね。お薬は飲まれていますか?」。吉田さんは優しく声をかけた。

写真② 血圧を測る吉田さん
キャプ 血圧を測るときにも、丁寧な対応で接している
血圧を測るときにも、丁寧な対応で接している

 現在はまだ「まちかど保健室」自体の認知度は低く、飯能市で行われていることもまだまだ知られていないという。吉田さんが入職する前から開いていたのだが、なかなか定着しなかった。

3月から毎週開けていることで、地域の住民たちが商店街で買い物をするついでに、通りがかる機会が増えている。「月曜の午後は看護師さんに会える」と思ってもらうのが目標とのこと。「居場所づくりと介護予防のスタートを兼ねた保健室をやっていきたい」と話していた。
 
「なぜこんなに運ばれてくるのか」手術室で感じた疑問

 吉田さんは高校卒業後に介護士をしていたが、母親が看護師だった影響もあり、「医療に深く関わりたい」と、働きながら看護学校へ通っていた。

 就職先は大学病院で、希望だった手術室に配属。若手なら一度は憧れるという救命の看護師になった。厳しい指導の下、新人看護師として懸命に働いていたという。

写真③ 血圧計
キャプ 自分の体の〝声〟を聞くことが大事なのだそうだ
自分の体の〝声〟を聞くことが大事なのだそうだ

 結婚後は自宅から車で40分ほどの民間病院で勤め、年末年始も関係なく、救急で患者が運ばれれば連絡が入った。休みの日でも急いで駆けつけ、一度手術室に入ると、長くて6、7時間は立ちっぱなしの日もあった。医師の横で、目の前に横たわる患者の命と向き合い、一瞬の気も抜けず、全力で集中する日々。ひっきりなしに運ばれてくる患者は膨大な数で、気付けば心身共に疲れ切ってしまっていた。 

 「疲弊する中で『なぜ毎日こんなに人が運ばれてくるのか』と疑問を感じました。医療現場は人手が足りないですし、患者さん側も病気になる前に、何かできることはなかったのかと思うようになりました」

 普段から自分で取り組める予防法があれば、病気を防げたかもしれない、手術や入院をしないで済んだかもしれない―と考えるようになった吉田さん。そのためには、自宅で暮らす高齢者を中心に観る訪問看護師になりたいと思った。

 「予防ができれば、患者さん本人だけでなく、医療現場で働く医師や看護師にとっても過度な負担を軽減できると思っています」

 その後、子育てもあり、家から近い場所で仕事を探すため2年前に転職。現在の訪問看護リハビリステーションたんぽぽに入職した。のどかな山里の風景を眺めながら、自然豊かな環境で働いている。

市民の健康を守る看護師に

 訪問看護師の仕事は、地域住民の自宅を訪問し、病気や障害の状態をチェックすることだ。患者のプライベートな場所で、医療処置やコミュニケーションを図り、身体面や精神面に異変がないか観察する。

写真④アイキャッチ兼用 立ち姿
キャプ 「これからも市民の健康を守る」と話す吉田さん
「これからも市民の健康を守る」と話す吉田さん

 実際には、自宅で暮らすには限界を迎えている高齢者を前にして、考えることもあるという。

「『施設や病院には絶対入りたくない』と、かたくなに拒む方もいます。ですが、衛生や食事など心配になる点がいくつもあって、『その人らしく、かつ健康的な生活を送れるようになれば』と思ってしまいます。丁寧に説明するのですが、難しさを感じています」 

 そんな吉田さんは、現在の職場で訪問看護ができることに、とても感謝しているそうだ。

 本来であれば、訪問看護師の求人には「病棟勤務3年以上」と条件に記載されていることが多い。だが、吉田さんは手術室の経験が長く、病棟での看護師歴は2年ほどだった。

「私は病棟で働いた経験が少ない方なので、求人によっては断られることもあります。ですが、今の職場は経歴に関係なく採用していただき、私のやりたいと思っていた予防への思いも一致していました。一緒に働く方々のおかげで、『まちかど保健室』も成り立っています。これからもまちの看護師として、市民の健康を守るために頑張っていきたいです」

いずれ「病院に行くのはおっくうだけど、吉田さんになら会って話がしたい」と思う人が、「たんぽぽカフェ」を訪れるようになるだろう。全国の「まちかど保健室」にも、吉田さんのように親切で心ある看護師がいるのだと思うと、心が軽くなった。

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