2023年8月19日
※文化時報2023年6月27日号の掲載記事です。
不登校児の母親から「写経をしたい」と頼まれたのをきっかけに、大阪府柏原市の浄土宗安福寺(大﨑信人住職)は15日、初の写経会(しゃきょうえ)を開いた。隣の八尾市で分かち合いの会を開くメンバーらを中心に、4人が参加。終了後は本堂が語らいの場になった。
安福寺を訪れたのは、昨年11月から月1回、八尾市内で行われている「らふ~不登校っ子家族の止まり木 ゆるっとカフェ」の参加者たち。学校に行かない子の親たちが、緩やかに集まりたいと始めた会だ。
大﨑住職は不登校について勉強したいと、可能な限り顔を出している。普段はあまり仏教の話をしないが、参加者から「自分と向き合える時間を持ちたい」「写経をやってみたい」との声が上がったことから、写経会を企画した。
この日は、法然上人が臨終の2日前に書き残したと伝わり、日常の勤行で読まれる「一枚起請文(きしょうもん)」を使用。参加者らは、約1時間かけて筆ペンでなぞり書きした後、奉納したり持ち帰ったりした。
法要と法話の後、参加者らは本堂に残ってよもやま話に興じ、心静かなひとときを過ごした。お布施として500円と、安福寺で2カ月に1度開かれる食料支援「フードパントリー」用のレトルトカレーを渡していた。
吉田陽子さん(49)は「五感を使う時間だった。日常生活での自分の視野が、出会いや教えによって広がった気がする」。阪元紀子さん(51)は「昔からお寺は身近な場所だったが、知らないお寺には自分からなかなか行けない。こうして大﨑住職につながれたことが、本当によかった」と笑顔をのぞかせた。
大﨑信人住職が「らふ~不登校っ子家族の止まり木 ゆるっとカフェ」に参加した当初の動機は、安福寺が一般財団法人お寺と教会の親なきあと相談室(小野木康雄代表理事)の支部として活動するに当たり、学びと実践経験を積むためだった。
大﨑住職には小学1年の娘がいるが、不登校ではなく、自分自身も子どもの頃は学校が好きだった。知らない世界だからこそ、親たちの話に真摯(しんし)に耳を傾けたいと思ったという。
横から口を挟まず傾聴を続けているうちに、ある気付きを得た。「障害の有無にかかわらず、子育てについて皆で考えている」。不登校の話が子育ての話に聞こえてきて、より身近な問題と捉えられるようになった。
写経会に参加した吉田陽子さんは、「ゆるっとカフェ」の企画者の一人。「お母さんたちが笑って帰れることを大事にしている。分かろうとしてくれる人がいるだけで、すごく力になる」と話し、大﨑住職には「いろいろなつながりを持って、地域のために積極的に活動してくださっている」と、感謝の言葉を口にした。
大﨑住職は「ゆるっとカフェ」だけでなく、意識してお寺の外に出て、さまざまな活動に参加している。それによって人とのつながりが自然と生まれ、今回の写経会のように、新たな取り組みへと発展している。
「お寺で行う場を守るためには、さまざまな方とつながり、支え合うことが必要」と大﨑住職。お寺のイベントに関心を持ってくれる人を増やし、仏教を必要としてもらえるようになれば―。これからも、行動を続けるつもりだ。