2024年8月2日
※文化時報2024年6月7日号の掲載記事です。
障害のある子の親たちが関心のあるテーマについて情報交換できるようにと、鹿児島市の浄土真宗本願寺派妙行寺(井上從昭住職)は5月24日、初の「親あるあいだの語らいカフェ」を開いた。障害年金の申請を専門に扱う社会保険労務士でファイナンシャルプランナーの弓削遵子さんが話題を提供。約20人が思い思いに語り合った。(主筆 小野木康雄)
重度の知的障害のある弟がいる言語聴覚士、西野将太さんが代表を務める「鹿児島きょうだいの会」と共同で開催。前半は、自身も障害のある子の母親である弓削さんが、障害年金の概要について解説した。
障害年金は、事故や病気が原因で障害を負った人に国から年金が支給される制度。原則20歳~65歳未満で日常生活に支障のある人を対象としており、学齢期の子の親たちにとって関心の高い話題だ。
弓削さんは、申請時のポイントを「いかに日常生活に支障があるかを、きちんと申し立てることが大事」と指摘。書く必要のないことまで申立書に書くと、肝心な部分を読んでもらえなくなる恐れがあることや、医師に診断書を出してもらうには余裕をもって半年前から受診することなどを助言した。
後半は、参加者らが好きな席に着いて弓削さんや西野さんをはじめとする専門家や親同士で語り合い、時間を過ぎても話し込む姿があちこちで見られた。
肢体不自由で支援学校小学部6年の長女(11)の母、内野香織さんは「障害年金の申請はまだ少し先だが、遠からず近からずの話。しっかり聞けてよかった」と笑顔で語った。
井上住職は「孤立が一番怖い。つながりさえすれば何とかなるので、親御さんには気軽に相談しに来てほしい」と話した。今後は半年に1度のペースで開催する予定。
妙行寺は全国に先駆けて一般財団法人お寺と教会の親なきあと相談室(小野木康雄代表理事、京都市下京区)の支部を開設。「鹿児島きょうだいの会」代表の西野将太さんを招き、2021年12月と今年2月に講演会を開いた。
「親あるあいだの語らいカフェ」の開催が今回実現したのは、そうした下地に加えて、ある保護者の存在が大きく影響した。
広田かずえさん。重度の自閉スペクトラム症(ASD)=用語解説=の長男(17)がいる。かつて妙行寺境内のたにやま幼稚園に長男を通わせており、当時は井上從昭住職が園長を務めていた縁がある。
広田さんは、子どもの学年や学校、障害の種別を超えて保護者同士がつながることが重要だと考え、親たちのためのサークル「エンジョイクラブ」を主宰。10人ほどが月1回集まり、革の小物やフラワーアレンジメントなどを作っては、ランチでおしゃべりに興じているという。
以前は、鹿児島市が設置して市社会福祉協議会が運営する地域福祉館を使っていたが、予約が大変なため他の活動場所を探していたところ、井上住職が門徒会館の提供を快諾した。昨年春ごろから借りている。
普段の活動から気軽に交流し、同じような悩みを分かち合ったり、いろいろな気持ちを吐き出したりしていることが、語らいカフェの開催に無理なくつながった形だ。
広田さんは「障害のある子の子育てには情報交換が欠かせないので、ご縁をもっと広げたい。語らいカフェでは今後も専門家の方に来てもらって、有意義な時間にしたい」と話している。
【用語解説】自閉スペクトラム症(ASD)
コミュニケーションや対人関係の困難と、特定のものや行動への強いこだわり、限られた興味などの特徴がみられる発達障害。かつては自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー症候群などの名称で呼ばれていたが、アメリカ精神医学会が2013年に発表した精神疾患の診断基準(DSM)第5版からは自閉スペクトラム症に統一された。約100人に1人いるとされる。