2023年4月24日 | 2023年4月25日更新
冬季オリンピックで注目された「カーリング」を、氷上ではなく手軽に行えるユニバーサルスポーツがある。NPO法人カーレットジャパン協会が運営する「カーレット」。会議テーブルを並べてコートをつくり、世代を問わず子どもから大人まで、障害があるなしに関わらず全員が参加できる。今回は埼玉県狭山市の「狭山カーレットクラブまぜこぜ」が行ったイベントを、スポーツの苦手な筆者が体験してきた。(飯塚まりな)
1月21日午前9時。参加者らは狭山市内の公民館に集まり、自分たちでカーレットの準備を行っていた。会議テーブルを並べた上に専用のマットを敷き、長さ360センチ、幅60センチのコート4面を設置していく。この日は総勢36人が参加した。
事前に主催者の堀充さんがチーム分けをし、ルールを説明。参加者には健常者とさまざまな障害を持っている人がいるため、あいさつや応援などは簡単な手話で表現するという。
ダウン症の会や同じ地区で暮らす住民の集い、社会福祉協議会などの7チームができた。家族やきょうだいで参加している場合は、それぞれ別のチームに入った。
色分けされたチームの対戦表を見ながら、自分たちが使うカーリングの台に移動する。1ゲームが終わり次第、また次の台へ移動していく仕組みだ。「まぜこぜ」のコミュニケーションを取るのが目的なのだろう。
コートの上には、色画用紙を巻いたペットボトルが目印として置かれてあり、子どもやさまざまな障害のある人が参加しているときも、色を見れば自分がどこに移動すればいいのか一目で分かる工夫がされている。
ゲームは1試合3エンドで、2チーム対抗戦。中心から白、赤、白、青となっている円形のハウスに向けて、ストーンを1投ずつ交互に6個を滑らせていく。これで1エンド。最後に各エンドの得点を合計して勝敗を決める。
至ってシンプルなゲームだが、チーム対抗戦だけあって自分の番が来ると皆、真剣な顔つきになる。スピードよく滑るストーンや石が弾ける音は、ビリヤードやボーリングに近いものがあった。
失敗しても、周囲が「ドンマイ」と励まし、得点を入れた時は「うれしい!」「上手!」と手話で喜び合う。カーレットは、コミュニケーションが深まる競技だ。会話が苦手な人でも、手話だと無理に言葉を選ばなくて済むので、気軽に仲間を応援できる。
筆者も同じチームの小学生に「次はここを狙えばいいよ!」と的確なアドバイスをもらった。障害を持つ男性に「カーレットはどうですか?」と質問すると「楽しいです!」と元気に返され、自然とコミュニケーションが取れた。
障害を持つ兄と参加
途中、子どもを抱っこしていた女性と話す機会があった。2022年に「狭山カーレットクラブまぜこぜ」ができてからすぐ会員になり、初回から来ている。この日は3人の子どもたちと母親、障害を持つ兄と計6人で参加していた。
「兄には障害があり、今までは一緒にできる遊びやスポーツがなかなか見つかりませんでした。カーレットは障害者と健常者を分けることなく、フランクな関係でいられます。お互いに同じ時間を楽しめるきっかけづくりになったと思います」と、その女性は言う。子どもの1人は兄と同じチームに入り、「次は伯父さんの番だよ」と、ゲーム中に気に掛けていた。
女性と兄は適度な距離を取っており、チームも別々。「私は昔、兄によく怒っていたから、恐がられてるんです」と打ち明けたが、今は大切な家族として楽しい時間を一緒に過ごしたいと願っている。
終了後には、チームの総合点を集計。子どもたちが手作りの賞状と参加賞を用意しており、表彰式が行われた。大人たちは、マスクの下でにっこり笑っていた。
まぜこぜで楽しむ…まさに社会に必要
世代を超え、初めて会った子どもや大人とゲームをし、手話で喜びを分かち合う体験はすごく新鮮だった。スポーツへの苦手意識が強い筆者でも、ユニバーサルスポーツなら最後まで楽しめると知った。
見ているだけなら簡単そうなのに、いざストーンを滑らそうとすると「どうしたら勝てるのか」という気持ちが、頭の中でぐるぐる巡った。こんなことは久しぶりだった。
障害者も健常者もまぜこぜになり、カーレットを通じてお互いを認め合う姿を見ながら「社会に必要なこと」はまさにこのことだと感じる。
もし、世の中が「狭山カーレットクラブまぜこぜ」のようだったら、お互いの個性や思いを大切にできる。ルールを守り、戦争が起きない平和な世界ができるかもしれない。そう感じるほど、参加者をポジティブにさせるすてきなゲームだった。