2023年11月12日
「ご飯がおいしくない」
ある老人ホームでは、入居者のこうした声に頭を抱えていました。スペースが十分に確保できないこともあり、ホームには本格的な厨房はありません。お米を炊くのとみそ汁を作るのは自前で行っていましたが、おかずは外部事業者から湯煎(ゆせん)で食べられる食材を仕入れていました。
最近は、こうした食材の味は格段に向上し、メニューの数も増えてはいますが、それでも「学食や社員食堂みたいな食事」という雰囲気になってしまいます。
ホームでは「少しでも、食卓に変化を持たせよう」と、スタッフがまちの手作り総菜店や和菓子店などで、おかずやおやつを購入していましたが、予算の問題やスタッフの手間が増えるなどの理由から、長続きしませんでした。
食事が不満で退去するほどでもなかったそうですが、残食が多く、入居者が低栄養状態になることが心配されたことから、ホームでは食事改善が喫緊の課題になっていました。
悩んだスタッフたちが行きついたのが「お米」でした。
ホームがあるエリアは今でこそ住宅地ですが、50年ほど前までは周囲に田畑が広がっていました。入居者の中には自身や親戚に元農家がいる人も多く、おいしいお米を食べていました。「お米がおいしければ、結果的におかずもたくさん食べるだろう」と考えたのです。
今では、このホームは玄米を仕入れ、毎日使う分だけ精米して炊いています。おかずはこれまでと同じ湯煎ですが、ご飯のおいしさに釣られて、これまでよりも摂食量が増えたそうです。
今の老人ホーム入居者は、戦中戦後の食糧難時代を経験しています。「白いほかほかのご飯さえあれば、何もいらない」という考えが根強く、おかずはそれほど重要ではなかったということです。