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インタビュー

橋渡しインタビュー

毎日来たくなる通所施設に 山下望さん㊦

2023年1月18日

 障害者支援施設「青梅学園」を運営する社会福祉法人南風会は、障害福祉サービス多機能型通所施設「かすみの里」(東京都青梅市)も手掛けている。青梅学園の設立者の息子、山下望さん(64)は、かすみの里で施設長を務めている。

明るくインタビューに答えてくださった山下さん
明るくインタビューに答えてくださった山下さん

 通所施設かすみの里は就労継続支援B型事業=用語解説=の「グループつばさ」と生活介護事業の「グループののか」に分かれており、自宅やグループホームから毎日、利用者が通ってくる。「毎日ディズニーランドに行くかのような気分で来てほしい」「リゾートホテルだと思って気持ちよく過ごしてもらえたら」。山下さんは冗談交じりに、でも心から「楽しみにして通ってほしい」と願いを語る。

 先日、重度の障害があり、自分の気持ちを言葉にすることが困難な女性が、自ら車いすで玄関まで移動し、送迎車を待っていることを知った。会話ができなくても、通所を楽しみにしていることが分かり、職員の間でも話題になったという。

 他にも、ダウン症の利用者に「今度一緒にご飯を食べようね」とハグされながら話しかけられることもある。

職員と共に屋上でメダカを育てている
職員と共に屋上でメダカを育てている

 普段は会話が成り立たないのに、職員が咳をすると「痛い?」と声を発して心配してくれる利用者もいる。たった一言でも、人間的な優しさや知性を感じる瞬間があるというのが、山下さんの考えだ。たとえ時間がかかっても「職員は自分の味方」と理解されれば、良い人間関係が築けるとも信じている。

シフォンケーキの甘い香り

 かすみの里は2007(平成19)年4月に開設。広い中庭を挟んで青梅学園に隣接している。2021(令和3)年の青梅学園建て替えの際に、中庭で盆踊りができるようにと設計されたという。

 就労継続支援B型事業の仕事内容は、青梅学園から出された衣類やシーツなどの洗濯を請け負い、受託作業では宅配寿司店の箸としょうゆ皿のセット作りや、チラシの配送準備を行う。中にはバイクの軸受である「ローラベアリング」の製作など、集中力が必要な作業もある。

利用者が行う作業を事前に準備する職員
利用者が行う作業を事前に準備する職員

 それだけではない。ある部屋では、作業台の上に大きなボウルやケーキの型があり、室内全体に甘い洋菓子の匂いが立ち込めていた。かすみの里ではシフォンケーキの製造と販売も行っているのだ。

 施設内には「どんぐら喫茶」というおしゃれなカフェも。元々は職員の食堂としてオープンしたが、利用者たちがケーキセットを頼んでくつろぐこともある。接客を担当しているのも利用者だ。

 「仕事をしたいと思っている方が多く、働いて人の役に立てば、精神的な安定にもつながる。職員も利用者さんの働きに対して、具体的に褒めたり声掛けしたりしやすい」と山下さんは話す。

ディズニーランドやUSJに

 生活介護支援事業では、常時介護を必要とする障害者に対し、食事や入浴、排泄(はいせつ)など生活全般に関わる支援を行っている。中には就労継続支援B型で定年を迎え、生活介護支援に移行した利用者もいる。

 日々運動や歩行訓練を行い、週に1度はクラブ活動として、創作やお菓子作りなどのレクリエーションを取り入れている。

シフォンケーキはプレーンとチョコ味の2種類ある
シフォンケーキはプレーンとチョコ味の2種類ある

 「先日のお菓子クラブでは、プリンにチョコレート菓子とマスカット、生クリームを乗せて食べたんですよ。どう見てもおいしいスイーツを、みんなで仲良く作って食べるんです。利用者さんが楽しめれば、それが一番幸せですから」

 時には利用者と外泊し、東京ディズニーリゾートやユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)に遊びに行くこともあり、楽しいことを施設全体で常に考えている。

「親なきあと」ついのすみかは

 今後の目標を尋ねると、山下さんは「60年以上前から変わらない課題に取り組みたい」と話した。人口の多い東京や大阪などの都市部では、障害者が安心・安全に暮らせる家や施設が慢性的に足りていないという問題がある。
 
 特に東京都23区では「親なきあと」に住み慣れた家や地域を離れる障害者が後を絶たない。都内でも自然の多い地域や、埼玉県に移って暮らすケースが多いものの、受け入れ先が見つからない場合もある。意思に添えず、ついのすみかとして全く知らない地方へ移住し、生涯を終える人もいる。

かすみの里の外観
かすみの里の外観

 「本人が望んでいるならいいのですが、障害があれば特に住み慣れた場所で安心して暮らしていきたいと考えるのが一般的です。親も自分たちがいなくなった後、大切な子どもが見知らぬ土地で生活するのは不安でしょう」。山下さんはそう説いた。

 当面の目標は、青梅市に障害者を中心としたグループホームを設立することだ。成人した障害者が親元を離れ、家族と程よい距離感を保てる環境を整えたいと考えている。

【用語解説】就労継続支援B型事業

 一般企業で働くことが難しい障害者が、軽作業などを通じた就労の機会や訓練を受けられる福祉サービス。障害者総合支援法に基づいている。工賃が支払われるが、雇用契約を結ばないため、最低賃金は適用されない。

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