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インタビュー

橋渡しインタビュー

字が書けない少女を、ミシンが導く 佐々木奏さん

2023年9月2日

 金沢市の中学2年、佐々木奏さん(14)は6歳の頃からミシンを使い、バッグやエプロンだけでなく、学校の制服を作ってしまうほどの腕前だ。昨年度は日本縫製機械工業会主催の「第43回ホームソーイング小・中・高校生作品コンクール」で、応募数3,375点の中から優秀賞を獲得。一方で字が書けないという学習障害を持ち、現在は学校に通わず自宅から授業に参加している。多感な少女がミシンと向き合う日々とは。

ミシンに向き合う佐々木奏さん
ミシンに向き合う佐々木奏さん

姉弟でイベント出店

 「ぬいぬい屋SOU」。奏さんのブランドだ。トートバッグはイベントに出店すると、完売してしまうこともしばしば。売り上げは自分で管理し、次の作品に向けた布などの材料費に充てている。最近では、SNSを見たフォロワーが買いにくることも増えた。

 イベント時には、接客上手な10歳の弟も協力し、人見知りな性格の姉をフォロー。けなげな姉弟が社会とつながる貴重な時間だ。

 「一生懸命作った物を喜んで買ってもらえるとうれしい。人の役に立つ作品を作っていきたい」と目を輝かせる奏さん。一枚の平らな布から、服やバッグなど立体的な物が出来上がっていく過程が、創作意欲をかき立てるのだという。

買ってくれる人の笑顔や感想が励みになると話す。
買ってくれる人の笑顔や感想が励みになると話す

 初めてミシンを触ったのは6歳のとき。ミシンが苦手な母親が、雑巾を縫おうとしていたのを助けたことが始まりだった。小学1年の夏休みの自由研究ではワンピースを縫って提出。ポシェットやエプロンなども作り、裁縫の面白さに夢中になった。

 操作などは独学で習得。分からないところはイベントで知り合った布物作家さんやミシンの販売元に尋ねたり、市販の服の製法などを見たりしながら、日々研究している。

 中学の入学式では、学校側に許可をもらい自作の制服を製作。スカートが苦手なため、ワイドパンツに仕上げるなど、デザイン画を描いてから丁寧に作り上げた。

 「指定の制服が届いたのですが、感覚過敏があり、肌がチクチクして着られませんでした。制服から型紙を取って、デニム生地で丈夫にしました。針を通すのが大変だったけど、市販の制服に近いものを作りました」

 入学式では「かわいい」と注目され、校長先生にも声をかけられた。どんな学校生活を送れるのだろう―。奏さんが期待と不安でいっぱいになったのには、事情があった。

学習障害、体力がない自分

 奏さんは字が書けない学習障害を持っている。どんなに頑張っても漢字や作文を書くことは難しく、幼い頃から周りの子が書いた字を見て「いいなー、うまいなー」と眺めていた。

 他にも極端に体力がなく、学校の階段を上がって教室に入るまでに息切れしてしまうほどだった。体育の授業も本気で取り組むが、同級生からは「何で手を抜くの?」と言われてしまい、切ない思いをした。

 小学校低学年の時に不登校になり、ほとんど通わずに卒業。

デニム生地で作ったセーラー服
デニム生地で作ったセーラー服

 中学校では学校側の配慮で、ノートをほぼ取らず、タブレット端末を使って授業を受けるようになった。録画した内容を後で見返せるようにし、黒板に書いたものは消さずに、授業が終わると自分で写真を撮って記録した。

 しかし、2学期になると再び通うことができなくなった。同級生たちと学校生活を送った経験が少なく、ミシンが得意でも、他のことができないと悩むことが多かった。

 現在は、パソコンを使って自宅から授業を受けている。時々、ミシンで製作した作品を持って夜に登校し、担任の先生に見せにいくこともある。

 「学校は嫌いじゃない。自分のことを理解してくれて、いろいろ配慮をしてもらえることがうれしい」。奏さんは、感謝の思いを口にする。

不登校1日目「水族館に行く?」

 奏さんが自分らしく過ごせるのは、母親(44)の存在が大きい。

母親(中央)は娘のことを「奏さん」と呼んでいる
母親(中央)は娘のことを「奏さん」と呼んでいる

 母親自身、小学校でいじめに遭い、苦しい時期を過ごした。同級生に「学校に来るな」と言われ続け、逆に「休んでたまるか」と根性で乗り切ったこともある。

 母になった今、娘を見て思うことは「生きているだけでいい」ということ。

 「学校に行くことに思い悩んだ子が、自ら死んでしまうような時代。そこまでして無理に通う必要はないので、不登校という選択肢があって良かったと思います」

 奏さんが今でも覚えているのは、小学2年の時に初めて「学校に行きたくない」と母親に言った日のことだ。

 普通であれば、親は学校に行かない理由を問いただし、担任に連絡するかもしれない。だが、母親は「じゃあ、水族館に行く?」と聞いたという。

 「私の親が母でよかったと思う」と、奏さんは笑顔を見せた。

作品はポップな色合いが多い
作品はポップな色合いが多い

 多少のことではうろたえない母親の強さが、奏さんを支えている。たとえ学校に行けなくても、安心してミシンと向き合うことができる。

 これからも悩んだり、落ち込んだりすることがあっても、きっとミシンが奏さんを導いてくれるだろう。

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