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インタビュー

橋渡しインタビュー

介護現場に一石投じるパフォーマー 若山克彦さん

2023年9月24日 | 2023年9月25日更新

 株式会社HANALAB代表、若山克彦さん(47)は介護士歴18年。介護にまつわるイベント、研修や事業所のコンサルタントを行う一方、レクリエーションで注目を集めるパフォーマーでもある。介護現場で使えるDVD「プラスダンス」の発売や、65歳以上の女性に向けた写真集を出版するなど、話題には事欠かない。だが、華やかな一面の裏には、自身で運営していたデイサービスの廃業という苦しみがあった。自らの経験と知識を次世代につなぐ架け橋になろうとしている。

 一見、介護とは無縁の印象を受ける若山さん。さわやかな笑顔と高身長、細身のスタイルは、タレントのような雰囲気を醸し出す。

介護福祉士若山克彦さん
介護福祉士若山克彦さん

 20代で訪問ヘルパーになり、介護福祉士、ケアマネジャーと順調にキャリアアップ。介護福祉士養成講座などで講師を務め、介護現場にまつわるコミュニケーションやレクリエーションを教えてきた。

 また、一般社団法人世界ゆるスポーツ協会(澤田智洋代表理事)と介護用品・福祉用具通販の「スマート介護」が企画して作ったDVD「プラスダンス」では、介護のお兄さんとして登場。教育番組にありそうな親しみやすいメロディーで、誰でも気軽にできるダンスと歌を披露している。

 しかし、メディアや講師業で順風満帆に見える中、2018年には自身が経営するデイサービスが経営難で倒産。心を込めて作った施設の閉鎖を余儀なくされ、精神的に参っていた時期があった。

 そんな時に、プロカメラマンから「写真を撮りたい」と声をかけられた。何かできるかもしれないと、一緒にフォトブックを制作することにした。「ただただ、カッコ良く写っている写真を撮ってもらった」という。

 フォトブックのタイトルは『R65介護男児〜僕と一緒にデートしよう〜』(株式会社GOBOU)。テーマは「全国のおばあちゃんたちにときめきを届ける」だ。クラウドファンディングで資金を募り、目標金額を上回って出版した。2019年3月のことだ。

意欲支援を目的に制作された写真集
意欲支援を目的に制作された写真集

 写真集では、「プラスダンス」でのにこやかな笑顔が印象的な若山さんとは真逆な、ダンディでスタイリッシュないでたちで写っている。

 ページをめくると、絵本のようにストーリーがある。昼からデートをし、一夜を共に過ごして朝を迎えるという内容だ。

 読者に語りかける口調で、文字が書いてあるのも面白い。紙芝居のように話が進んでいく仕掛けが、女性の高齢者に好評だったという。

 「例えばページの中に、『おみそ汁は赤みそと白みそどちらを使っていましたか?』という問いかけがあるんです。すると、女性利用者さんは『私は赤みそよ』なんて答えながらページをめくって楽しんでくださっているそうです」

 あるデイサービスでは認知症の女性が、帰りの送迎車の順番が待てず施設内を歩き回っていたが、若山さんの写真集を手渡すとページを開き、帰りの時間までおとなしく待っていられたという。

写真③写真集ページ
色気のある写真が多く、今までにない写真集が仕上がった

 「介護士1人分の仕事をしてくれている」と介護関係者から褒められるほど、写真集は好評だった。今でも各地の介護施設に1冊はあるというロングセラーだ。

たくさん可愛がってもらったから、今がある

 若山さんは1975(昭和50)年東京生まれ。20代前半は営業職に就いたが、ノルマに追われ、5年働いた末に退職。特にやりたいこともなく、周りと比べ自己肯定感の低さを感じていた。 

 母親の友人に勧められて旧ホームヘルパー2級を取得。縁あって、訪問介護事業所に就職し、26歳から訪問ヘルパーになった。若い男性がヘルパーになるのは珍しがられたが、抵抗はなかった。

 訪問介護では身体介護の他に掃除や料理、洗濯などもサービスの一環として行う。だが家事ができず、「何しに来たの?」と言われたこともあった。

写真④プラスダンス ブルーのポロシャツを着た若山さん
「プラスダンス」で笑顔があふれる

 しかし、営業職で積んだコミュニケーションスキルや根っからの明るさが利用者に喜ばれた。徐々に「待っていたよ」「よく来たね」と好かれるようになり、がぜんやる気がみなぎった。

 何より30代で勤めたデイサービスでは、レクリエーションで活躍。短い時間でも、できるだけ一緒に利用者と楽しみ、それぞれの個性や笑顔を引き出すことに生きがいを見いだした。介助で手をつないだ女性利用者が「このままあなたとワルツを踊りたい」となかなか離そうとしなかったほど、若山さんは人気者だった。

 「デイサービスの現場は、いつもみんなで大声で笑い合って、楽しかったです。僕がここまで介護を続けられたのは、利用者さんたちがすごくかわいがってくれたから。介護の仕事っていいなと思います。いろんな人に興味を持ってもらいたい」

これからの介護士たちへ

 若山さんは現在、毎日正午から午後1時まで、TikTok の「雑談ルーム」を配信している。若山さんのおしゃべりを、介護士や看護師など介護や医療に携わる人たちが聞きながら、悩みや質問をシェアしている。

写真⑤アイキャッチ兼用 グレースーツ横
経営者の気持ちに寄り添うコンサルティングをしたいと話す

 今後も変わらず、介護職の人々に向けて役に立つ情報の発信や支援を行っていきたいという。

 「介護業界で感じる視野の狭さを広げることや、現場で起きる出来事を1人で抱え込まず、悩みを話せる環境作りが大事だと思います」

 経営者の気持ちに寄り添うコンサルティングを通じて、人材を育てながら、介護パフォーマーとして活躍していく。

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