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インタビュー

橋渡しインタビュー

「杉くんの駄菓子屋」へ行こう 杉浦幸博さん

2024年3月14日

 愛知県岡崎市に住む杉浦幸博さん(45)は幼い頃に脊髄性筋萎縮症を患い、電動車椅子で生活している。2010(平成22)年、ほっとcom合同会社を立ち上げ、「杉くんの駄菓子屋」の店長になった。店内にはユーモアあふれる手作りくじ、ちょっと笑えるマニアックな駄菓子など、思わず手に取りたくなる商品が並ぶ。子どもを中心に老若男女が楽しめる駄菓子屋は、現代社会にとって貴重なお店。「まちの縁側的な存在でありたい」と話す杉浦さんは、今日も穏やかな笑みを浮かべ、駄菓子を買いにくる人々と交流している。

 現在、「杉くんの駄菓子屋」に並ぶ駄菓子は100種類以上と豊富なラインナップ。杉浦さん以外に、ボランティアや視覚障害者が一緒にスタッフとして働いている。いつもにぎやかで明るい雰囲気だ。

電動車椅子に乗って店を切り盛りする杉浦幸博さん
電動車椅子に乗って店を切り盛りする杉浦幸博さん

 店内の動線は車椅子が通れるよう道幅を広げている。

 「僕自身は品出しなどができないので、アイデアを出すことや接客などをします。それぞれが自分のできることをやり、駄菓子以外にも見どころがたくさんある店舗になっています」

 ただ駄菓子を売るだけでなく、スタッフが協力して作った手作りくじや景品なども用意され、子どもたちの興味関心を上手に引き出している。

 かつて子どもだった大人たちにも喜んで買ってもらえるようにと、ユニークな名称の駄菓子も並び、懐かしさからつい自分用にと買ってしまう親子連れも多いそうだ。

 2010年のオープン当初は、木工場だった建物の一部を借り、事務所を作った。それが、徐々に客足が伸びていった。初めての人でも気軽に入れるようにと工夫を凝らし、広い駐車場も備えている。

 杉浦さん自身は自分から声をかけるのはあまり得意ではない。それでも、市外から車に乗って買いに来てくれる親子や旅行中に立ち寄るお客もいるため、なるべく話しかけるようにして、日々の出会いを大切にしている。

開業13年を迎えた杉くんの駄菓子屋
開業13年を迎えた杉くんの駄菓子屋

 ある日、ほほ笑ましい出来事があった。

 「よく買いに来てくれた近所の小学生の男の子が、大学生になって、自分の彼女を紹介しに来てくれたんです。小さい頃から障害のある人の活動を知ることで、偏見がない大人になってほしいと願っていたので、うれしかったです」

 駄菓子という子ども心をくすぐるアイテムを通し、杉浦さんの思いは子どもたちに伝わっていた。

一人暮らし18年…できることは自分で

 3歳で脊髄性筋萎縮症の診断を受け、小学2年から特別支援学校へ通い出した。歩くこともできたが、坂の多い山の上に建つ学校には車椅子で通学した。

 成長とともに、高等部からは電動車椅子を使用。進路相談では、筋力の低下で呼吸が弱くなっており、卒業後の一般就労は厳しいと告げられた。落ち込むこともあったが、自宅でワープロを使ったデータ入力や内職作業などに取り組んだ。

 2010年5月、自分と同じように障害のある人が地域で暮らしていることを知ってほしいとの思いで、「杉くんの駄菓子屋」を立ち上げた。健常者と障害者が枠を超えてつながっていける場所を作りたい、という一心だったという。

 その後、同じ建物内で障害者居宅介護事業所ライフステージ奏(かなで)を営むようになった。自身も利用者の一人として登録している。

大人も子どももワクワクさせる要素が満載
大人も子どももワクワクさせる要素が満載

 杉浦さんの元にはヘルパーが1日2回訪問し、入浴時の着替え、食事作り、駄菓子屋への通勤など生活の一部を支えている。夜は寝る前に自ら人工呼吸器を着けて就寝する。

 一方、体調管理や駄菓子屋の運営などの課題も出てきた。物価の上昇やボランティアスタッフの募集、杉浦さん自身の体力がいつまで持つかなど、考えることはたくさんあるという。

迷惑をかける存在ではない

 杉浦さんがときどき思い出すのは、中学生の時に親から言われた言葉だ。

 ある日、知り合いからあるイベントに遊びに行かないかと誘われた。杉浦さんは喜んで承諾し、当日を楽しみにしていたが、家族に伝えると外出を反対されてしまった。

 その頃、杉浦さんはよく転倒していた。なんとか伝い歩きの状態で動いていたため、家や学校でない場所に出かけるのは親としては不安だったのだろう。

 「その時は、『転んだら迷惑だからやめなさい』と言われてしまって、自分は迷惑な存在なのかとショックを受けました。でも、相手は誘ってくれている時点で迷惑だなんて思っていないでしょうから、行かせてほしかったですね」

 自分の体のことは、自分がよくわかっている。無理をしなければ、たとえ初めての場所でも安全に楽しく過ごせると杉浦さんは思っている。

 「障害者の存在が迷惑であることは決してない」。杉浦さんははっきりと言った。

店内に並ぶ駄菓子、制服姿の学生も立ち寄る
店内に並ぶ駄菓子、制服姿の学生も立ち寄る

 もし、自分と同じような障害を持っている子どもがいたら、親が近くにいなくても新しい場所に行かせてあげてほしいと思っている。経験こそ宝であり、自分にとってできることを増やす大きなチャンスでもあるからだ。

 杉くんの駄菓子屋では、子どもの時にしか味わえない経験がたくさん詰まっている。

限られたお小遣いを握りしめて、駄菓子を選んで買うことを楽しみ、大人が全力で作った手作りくじに心をときめかせる。

 親や先生ではない大人と会話をし、障害とは何かを知っていく子どもたちにとって、杉浦さんの存在は何かしらの影響力を与えるに違いない。今日も学校では教えてもらえない大事なことを、子どもたちは駄菓子屋で学んでいる。

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